おやゆび姫



 ドイツの北、デンマークの森でチューリップの花が咲きました。その赤く美しく咲く花の蕾の中に、小さな親指おやゆびほどの女の子が生まれました。


 名前をおやゆび姫といいます。


 コウノトリが赤ちゃんを配達中に、チューリップの蕾の中に落っことしたのかもしれません。あるいはチューリップの妖精が人間の赤ちゃんに生まれ変ったのかもしれません。


 おやゆび姫が目覚めたとき、森の動物たちが騒いでいました。イイエ、うるさくて目覚めてしまいました。


 ヒキガエルの王様が言いました。おやゆび姫を息子の嫁にもらいたい。

 蜂の女王が言いました。子守役にちょうどいいわね。

 コガネムシの配達人が言いました。運び手が欲しかったんだ。

 ネズミのお婆さんが言いました。ちょうど掃除夫が欲しかったんだよ。

 モグラのおじさんが言いました。オレの奥さんにぜひ欲しい。


 おやゆび姫は、チューリップの蕾の中で聞いていました。

 ガタガタと震えていました。

 このままだと、この森でずっと働かされる。


 おやゆび姫は、動物たちが寝静まった夜、チューリップの蕾から逃げだしました。一目散に逃げました。地面を転がり、川に流され、泥まみれになりながらも逃げました。


 逃げた先で、月明かりに照らされ、傷ついた一匹のツバメと出会いました。


「可愛そうな燕さん。私が慰めてあげるわ!!」


 ずっと逃げてきたおやゆび姫は、飛びつかれて死にかけている燕と自分が似ていると思いました。


「似た者同士この地で果てましょう!!」


 その時、月の光に照らされた、おやゆび姫が赤く光り、燕を包みました。


「まあなんてことでしょう」


 死にかけていた燕は、息を吹き替えし、元気に羽ばたきました。


「ありがとう、お嬢さん。お礼にボクが君をどこか遠くへ運んであげるよ!!」


 おやゆび姫は言いました。


「どうか動物たちのいない土地へ。わたしたちが静かに暮らせる土地へ連れてってください!」


「お安いごようです!!」燕は喜んで言いました。


 おやゆび姫を乗せた燕は海岸線を南下していきました。


 そして日本の蝦夷地えぞち(北海道)へ到着しました。



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