住む場所を探していたが、都市にかまえる気には全くなれず、都市から離れた誰もやってこない、周りを海に囲まれた小島に居を構える。

 人々から忘れられ、無人島となってしまっていたこの島は俺にぴったりだとも思った。人付き合いがとことん苦手になっていた俺は誰かに家をたてることを頼むことはせず、自ら家を立て始める。やり始めてみると意外に楽しく、時間とともに出来上がっていく家を眺めつつ、生活を続けていた。

 当然、島の中だけで生活が全てまかなえるかといえばそうでもない。何週間に一度、変わり行くことを常とする都市に出向いて買出しをする。

 一人でコツコツ建てた家も完成間近となったある日の買い出しで、俺は路上に座り込む一人の少女と出会った。

 瞳に写り込んださらりとしたブロンドの髪が思い出の中にある彼女によく似て、褐色の肌はあの男のようで足を止めてしまう。ビルの陰、誰にも見つかりたくなかったのか、それとも見つかりたかったのか。

「お前、こんなところでなにしてるんだ?」

 息を潜めるようにじっとしながらも、その姿は通りから丸見えの少女の前に座り声をかける。驚き、瞳を丸くしてこちらを見る少女だったが返事はない。

「どこから来た?」

「……知らない」

 ただ一言、それだけを言って黙りこむ。じっと少女を観察してみれば、どろどろに汚れた洋服には番号が見えた。見覚えのある洋服に番号、おそらく、施設の子供。

 変わることを常とするこの街には、名も無い何も分からないという子供が多数存在する。大抵は大型の施設に送られるのだが、たまにこうして昔の俺のように抜け出してしまう奴も居た。この少女もおそらくそんな一人だろう。

「お前、施設から逃げ出してきたな?」

 びくりと体を揺らし、瞳には不安の色が広がり始めた。

「まぁ、あの中にいたら外に出たくもなるが、金もなければ知恵もない状態では死ぬのがおちだぞ」

「……うん」

「どこの施設だ?」

「……あそこに戻らなきゃ駄目なの?」

「一度はな、だがその後は俺と一緒に来い」

「おじさんと一緒に?」

「おじさんじゃない、これでもまだ若いんだ。俺はチカゲ。一度施設に戻って手続きをしないとお前は人としてこの世界から消されてしまうことになるからな」

「別にいいよ、消えても消えなくても同じだもん。チカゲと一緒に行ければそれでいい」

「ダメだ。どんな形であろうとどんなことがあろうと、今自分がここに在るということだけは守りぬけ。それが出来ないなら俺はお前を施設に送りもしないし、このまま見なかったことにしてここからいなくなるだけだ」

「……わかった、チカゲの言う通りにする。だからオレをあの施設から出して欲しい」

「いい子だ、お前、名前は?」

「ディリア」

 少し照れながら名乗って微笑んだ少女は俺の足にぎゅっと抱きついた。

 小さく傷だらけの手だったが、その温かさに俺は何だかホッとする。家族や知り合いと呼べるものが傍にいなくなり、ずっと一人で生きてきたつもりだった。だから俺は無人島で一人生活しても別段困りはしないと思っていた。

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