人間。

 希望が打ち砕かれ、強い想いが無くなったドルフィネが望むこと。

 よく考えなくても誰でもその答えは導くことが出来る。彼女の姿がジュリアから黒い翼の生えた死神へと変貌していくのを見れば尚更に。

 彼が望むもの、それは「死」だろうと。

 ドルフィネの想いが彼女をジュリアとして形作っていたのであるならば、今彼女を形作っているのもドルフィネの思い。

「連れて行く気なのか?」

 小さく呟いたチカゲに彼女の視線が絡みつく。

 彼女は死を好むかのように微笑んだかと思えば、今度は子供用に純粋な瞳を向けてくる。

 チカゲは彼女に現れるそのあまりに早い変化に戸惑っていた。

 だが、それは、彼女の言うとおりであるとするならばチカゲ自身の気持ちの流れが変化したということになるのだろう。

「連れて行くのかって聞かれればそうね、連れて行く。でも、チカゲが想っている場所ではないわ。私は死神でもなければ仏でもないもの。命を無理やり奪うことは出来ない」

「だが、その姿、それはドルフィネの望みだろう」

「彼の望みは死ではないわ」

 思っても居なかった彼女の言葉にチカゲは少々驚き瞳を丸くして彼女を見た。

「死じゃ、ない?」

「彼の想いを形作るのがこの姿なのは、彼の想いは限りなく死に近いからね」

「一体……」

「彼が今望んでいるのは死ではなく、孤独。誰にも邪魔されない、誰も入ることの出来ない時の止まった孤独を望んでいるのよ」

「それは、死んでいるのも同じだ。それでも死ではないと?」

「そうね、旗から見れば死んだ世界ね。でも、彼はその世界ですら生にしがみつくわ、それがどんなに苦しいことでも死ぬことは選ばない。死を選べば、娘にあえなくなると分かっているから」

「自分が死なずに死人に会う? 死人に会うことなど死んでいようと生きていようと出来はしない」

「そうね、そこが孤独の中であろうとも、それを彼は理解することはせず、ただずっと娘を探し続けるのよ」

「そうか、死人に会うことが不可能であるのにそれを望んでいる。故に孤独であり、死者に和えるとするならばそれは死者が集まる場所のみ。だから死神なのか」

 死後の世界が在るなどチカゲは信じては居ない。だが、死者に会うと表現されれば真っ先に思いつくのは死後の世界で、ということだろう。

 なのにドルフィネの望みは死者に会うことでありながら生きること。チカゲは一瞬その意味がわからなかったが暫く考え、その場で口の端に少しの嘲りを見せて微笑んだ。

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