「っていうか、全然似てないな。うん、似なくて良かったな」

「貴様のその口の悪さは何処で培って来たんだ。娘は母親に似たのだ」

「まぁ、そりゃそうだろうな。しかし、子供か……、真面目に驚くわ。あ、もしかして、人の親として娘の姿をカメラに撮ったから死ねって言うんじゃないだろうね」

「そうではないが、人の親として聞きたいことはある。娘はこの写真が撮られる一週間前、原因不明の高熱に襲われた」

 話し始めたドルフィネのほうを向き、話に頷いたチカゲの頭の中には「フィルムカメラで撮られたモノはその時を止める」という言葉が湧き上がっていた。たかが噂と信じていなかったがまさか本当だったのか? と顔色が青ざめていくチカゲの様子にドルフィネは言う。

「期待にこたえられず残念だが、私は迷信や都市伝説と言った類の物を信じる者ではない。目の前にある事実を受け入れる性質だ。だから貴様がこの写真を撮ったから娘のジュリアが眠ったままになったとは言わぬ。私が聞きたいのはこの写真を撮った場所と状況だ」

「眠ったまま? アンタの娘は眠ったままなのか?」

「あぁ、熱病の後遺症、そう思いたいが病は治っていて、脳にウィルスが入り込んだ形跡も無い、目が覚めないということはありえない。なのに、娘は目を覚まさない」

「医者がいったのか? 目が覚めないのはありえないと、目の前で目覚めていないものがいるのに」

「いや、医者は手の施しようがないといっただけだ。だが、ありえないことが起きているのは事実だ。原因がないのに目を覚まさないのだからな。私は親としてどうすればもう一度娘の瞳を見つめることが出来るのだろうかと思案していた」

「アンタにも情はあるってことか」

「当然だ。娘をどうにかと思っている矢先、貴様の事件が耳に入った。こんな時に煩わしいとカメラと貴様を処分して終わりにするはずだった。だが、貴様が妙な抵抗をしたおかげで、この写真を見ることになった」

「それで、俺が関係していると? 残念だけど、俺は何も知らない。彼女は数百年前に都市だった廃墟で俺が写真を撮っていると空から舞い降りてきたんだ」

「廃墟で、空から? 空と言っても広い、どの辺りだ」

「知らないよ。彼女は必ず俺がファインダーを覗いたら現れる。どの空から降りてくるのかなんて確認できない」

「ファインダーを覗けば現れるのは決まった場所でか?」

「初めはそうだったけど、最近では俺がファインダーを覗けば何処からともなく目の前に現れるようになった」

「では……」

「けど、あんたがいるこの状況で現れるかどうかはわからないよ」

 ドルフィネの思惑を悟るかのように言葉をさえぎって否定したチカゲ。

 ドルフィネは言葉を飲み込み、代わりにチカゲを凝視する。

「やってみなければわかるまい」

「あぁ、そうだな。でも、先に言っておいた方がいいだろ? 期待させて実は無理でしたなんてなったらアンタはきっと俺を殺すだろうから」

「死んでもいいのではなかったのか?」

「だから、俺は別に死を望んでいるわけじゃないって言ってるだろ? アンタの変な言いがかりで死ぬのはまっぴらだよ。アンタも分かってると思うけど、俺は極力人の居ない所を選んでカメラを使っていた。つまり、彼女と会っていたのも俺と彼女二人きりだ。人が居る所で彼女が現れるかどうか俺にもわからないんだ」

「ふむ、理屈は通っているな。ではカメラを持ってこさせよう」

「アンタもそうとう自分の目で確かめないとすまないタイプなんだな。ま、だからこそ支配者なんて立場でずっと君臨できているんだろうけど」

 チカゲの言葉に耳を傾けることなく、ドルフィネは手を叩き、やってきた黒いスーツを着た男にカメラを持ってくるように命令した。

 厳重に、これでもかと言うほど何個ものジャラルミンケースに入れられたカメラを防護服を着た男に手渡される。

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