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ファインダーを覗かなければ現れない彼女に出会って1年が経とうとした時、廃墟にあるチカゲのアトリエに数人の軍服を着た男と政府関係者という人物が現れる。
チカゲは自分の住処を、移転した首都の一番端の街中から外れた場所に設け、カメラ関係の作業場は例のごみ溜め近く、老人が住んでいた廃墟に構えていた。
決して人の来ないその場所で十分にカメラを楽しんでいたのだが、その日はこの廃墟には珍しい大人数が押し寄せる。
けたたましく鳴らされるドアベルにチカゲは半分あきらめてドアを少し開いた。
「日向チカゲだな。我々はこういう者だ」
「政府の人間? ……こんな所に政府の偉い軍人さんがいらっしゃるとは思わなかったな。俺の目の前に居るということは俺に用事があるということか」
「当たり前だろう。お前以外にこの場所に居る奴がいるのか」
「ふぅ、そりゃそうだけど、俺はあんた達に用事は無い。帰ってくれないか」
「部屋の中を検めさせてもらうぞ」
「理不尽だな。居住者の了解は無視かい?」
「ここがお前の財産であるなら了解は必要だろうが、お前はただ、この廃墟に居座っているに過ぎん。この場所に以前住んでいた者はもう死んでいる」
「はぁ、よく調べてるな。政府関係者って言うのは嘘ではなさそうだ」
「当然だ。では、入らせてもらう」
「断る」
ドアチェーン越しにチカゲが言えば男はじっとりとした嫌な視線を向けた。
「文句でも言いたそうな視線だな」
「文句? いや、文句ではなく、抵抗しても仕様が無いことに抵抗する貴様に呆れているだけだ」
「理由も言わずに強制執行か」
「理由など言う必要があると思っていないからな。何故ならこうなる理由はお前が一番よく知っているだろう」
「さぁ、わからないな。俺は善良な一国民でこれといって法を犯した覚えは無いけど」
「しらばっくれるな。構わん、チェーンを切って中に踏み込め」
男の指示でドアチェーンはあっという間に切られ、大勢の人が土足でチカゲのアトリエになだれ込んだ。カメラを手に入れてから用心に用心を重ねていたが、ある程度は覚悟していたこと。
情報というのは頑張って守ってみてもどこからか漏れでてしまうものだなと、チカゲはある程度観念する。しかし、ここまで理不尽に土足で全てを汚されるとは思ってなかった。
土足で上がりこんだ大勢の軍服の男は部屋の中を乱暴に荒らしながら、チカゲが撮り溜めたフィルムや現像した写真を持ってきた箱に放り込んでいく。
「強制執行なのは分かっても、ここまで礼儀を欠いて行われるとは思わなかったな。土足で泥だらけにして、しかもせっかくの写真をあんなに乱暴に」
「フン、罪人の言い分などに耳をかす必要は無い」
「罪人ね。罪人も人だとは思わないのか?」
「人権を言うのであれば罪を犯さぬことだ」
「アンタも頭が固いね。あぁ、アンタだけじゃない、ここに居る俺以外の人、皆頭が固くて礼儀知らずか」
「憎まれ口だけは達者なようだが、果たして中央の裁きの時も達者でいれれば良いが」
「憎まれ口じゃないな。ただの嫌味だ」
こんな状況になってもニヤリと微笑むチカゲの様子に、役人は苛立ちを見せないようにするために唇を噛む。余裕の表情を向けるチカゲだったが、内心、乱暴に自分の写真を扱う連中を殴り倒したい気持ちでいた。
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