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現像された写真を並べて見つめていると、名前も知らぬ彼女はチカゲの写真の中で未だその体を揺れ動かしているよう。
現像した写真は数あるチカゲの写真の中で、老人の死に顔と同じ位の宝物となった。と、同時に、チカゲは初めて動く人を撮ったのだと今更ながら胸が激しく鼓動し始める。
「彼女は一体誰なのだろう。通報されるのだろうか?」
軽やかで美しく動く女性に心惹かれる胸の高鳴りと、今まで用心し続けてきたが捕まってしまうかもしれないという不安。
それから暫くおとなしくしていたチカゲだったが、通報された様子も、誰かにみはられている気配もなく、どうやら彼女はカメラについて誰にも話さなかったのだと少し不安が薄くなる。
不安が小さくなれば、もう一つの胸の鼓動が大きくなっていた。
「彼女にもう一度会いたい」
どこの誰とも知らない、突然現れた不思議な少女。同じ場所で会えるとは限らないが、チカゲは彼女を撮影したその場所を数日ぶりにたずねる。
広がるのはこの前と変わらぬ自然に流れ、朽ちていく街並み。
「そう都合良くはいかないよな」
ため息をつきつつ、自分の浅い考えに少し嘲笑してファインダーを覗きこんだ。
その瞬間、ファインダーの中に彼女がふわりと舞い降りて、以前と変わらず楽しげに風に身を任せている。夢中でシャッターをきるチカゲを時折見つめて嬉しそうにたおやかに微笑み、フィルムがなくなれば消えていった。
それから、チカゲがファインダーを覗けば彼女は舞い降りてくるようになり、言葉も交わさぬ彼女とのやり取りはファインダーを通してのダンスと笑顔。
「本当に君は人間かい? それともこの世界に現れた妖精?」
ファインダーを覗きながら聞くチカゲの問いかけに何時だって彼女は笑顔だけで答えて、言葉を発することは無く、チカゲも無理やり答えを聞こうとは思わなかった。
数十回の逢瀬の後、彼女はチカゲの傍に寄り添うようになる。
チカゲの腕に絡められる彼女の白く肌理の細かい腕は不思議と体温を感じない。しかし確かにそこに彼女は居て、絡まる腕は彼女の柔らかさをチカゲに伝えていた。
生きているのか生きていないのか、人間か人間じゃないか、そんな事はその頃のチカゲにとってはどうでもいいこと。そこに彼女が存在しているということが重要だった。
彼女に出会って数ヶ月。たった数ヶ月でファインダーを通し、フィルムに焼き付けられた彼女の数は数え切れないほどになっていた。
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