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「しかし? どうかしたの?」
「いや、折角生き残ってもこの世界では使われることも無く、ただこんなゴミ溜めに隠されるだけ。しかも、その隠し場所を唯一知っている老人ももうすぐこの世界を旅立つ。使われる為に生まれてきたはずなのにかわいそうだと思ってな」
「……俺に押し付ける気だな」
「おっと、泣き落としはきかなかったか。まぁ、そういうことだ。お前だってそれを気に入ったんだろう?」
「まぁ、押し付けられてやってもいいけど、これ、使い方は?」
「知ってるわけ無かろう。わしだって保管していただけで使ったことは無い」
「使えねぇジジィだな」
「そういうな、多分わしの家を漁れば何かしら出てくるだろう。しかし、お前、本当にそれを使うつもりか?」
老人は使われない、かわいそうと言いながらも使うということは考えてなかったようで、チカゲの発言に少々面食らっている。
チカゲはそんな老人の様子を気にすることなく、目の前にある不思議なその物体を様々な角度から眺めていた。
「使わなきゃ、こいつがかわいそうなんだろう?」
「それはそうだが、この世界の法律を知らないわけじゃないだろう」
「もちろん知ってる。俺だって一応『教育』をされてきたからね。でも、爺さん見てみろよ。こいつは使って欲しいって言ってるぜ」
綺麗に手入れの行き届いたカメラはキラリとそのレンズを光らせてそこにあり、老人は初めて優しい微笑みを浮かべてチカゲを見つめる。輝くようなチカゲの姿は遥か昔、父親にこの場所に連れてこられてこのカメラを見た自分の姿に似ていた。
「これからわしの家に来るか?」
「いいの?」
「いいのもなにも、お前がそれを使うなら使い方なり何なりがあるかどうか探してみないと駄目だろう」
「これ、持って行っていい?」
「あぁ、かまわんだろう。もう街には人は居ない。見つかる等無いだろうしな。ただ、裸では持ち歩くな、その箱に入れてもっていけ」
「ん、わかった」
チカゲは箱の中にカメラをしまい、大事に抱えてその場所を出、老人の家へと歩き始める。それがチカゲとカメラとの出会いであり、チカゲが常に変化し続けなければいけない世界と別れた瞬間だった。
結局、老人の家に行ったものの、関係するものはあまり見つからず、唯一使えるものとしてチカゲがカメラと一緒にもらって帰ってきたのはカメラの説明書。すでに移転のお祭り騒ぎも落ち着いて、人が消えた静けさの中にある街中の自宅に戻ったチカゲは、老人の家で手に入れた説明書を読みふけった。
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