5
(はぁ、なんだか変ことになったな。やめておけばよかったかも)
後悔をしているチカゲの後ろから降りてくる老人の杖に背中をつつかれ、懐中電灯だけの薄暗い中ゆっくりと足元を確認しながら階段を下りて行った。
階段の先には再び扉が一つ。
チカゲは促されるままその扉を開けて中に入り、後に続いて入ってきた老人が部屋に明かりを灯した。
四方を壁に囲まれた窓などあるわけのない小さな部屋は老人とチカゲ、二人がやっと交差できるほどの広さ。その部屋の中心に木箱が一つおいてあり、老人はニッコリ微笑みながらその箱に手をかけた。
ゆっくり開かれていく箱の中には黒い不思議な形をしたものが数個、綺麗に衝撃防止材に包まれ存在している。
「……何これ?」
じっとその黒い物体を見つめながら聞くチカゲに老人は呆れるように眉を下げてチカゲを見た。
「何だ、お前はカメラも知らんのか?」
「カメラ? カメラってあのカメラ?」
「あのってどのことを言ってるのかわからんがカメラはカメラだ」
チカゲの時代、カメラといえば薄く小さくて、持ち歩いているかどうかも忘れてしまうほどの物。今見ているとても大きな物がカメラだとはチカゲには思えなかったのだ。
衝撃防止材を取り払って現れたのは四角いものが1つに、円筒状にレンズらしきものが取り付けられたものが4つ。自然と手を伸ばしかけて引っ込めるチカゲの姿に老人は、本体らしい四角い部分にレンズの付いた円筒状のものを取り付けてそっと差し出す。
「触ってみたいんだろう?」
「う、うん。でも」
「でも?」
「なんだか怖い、かな……」
「怖がる必要は無いだろう。ただの機械だ」
そういってチカゲの目の前に差し出されたカメラは黒いボディがまるでチカゲを誘うように輝いていて、思わずチカゲは手にとってしまった。
ずしりと重みを感じるカメラ。だが、そのボディに液晶は見受けられず、チカゲは老人に聞く。
「これ、どうやって撮るの?」
「本当に何も知らないんだな。このカメラはそこらに溢れているカメラとは違ってファインダーを覗き、フィルムという物に写し取ることで撮影するやつだ」
「フィルム?」
「そう、データではなく、フィルムという媒体に記録され、一度記録されてしまえば改ざんすることの出来ない写真をとることができる」
「改ざんできない? それって……」
「やっとわかったか。そう、この場所に隠してある理由も、このカメラが世界で最後の一つなのもそういうことだ」
「世界で最後の……。それ以外って」
「もちろん、壊されたか、自然になくなったかだろうな。これは我が家に先祖代々伝わってきたものだ。捨てるなど出来ないし、壊されるなんてもってのほか。だが普通の場所では見つかってしまうからな。わしの爺さんがこの場所に移したんだ。しかしな……」
急に老人の声が沈みこみ、カメラに一目ぼれしたかのような視線を送っていたチカゲはその視線を老人に戻して首をかしげた。
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