だが、チカゲはその一品はなんだろうと考えるのに必死で、老人の表情を見逃してしまう。

「別に嫌なら見なくてもいい、ただわしが自慢したいだけだからな。だが、ここで帰るのはもったいないと思うぞ。見る価値は十分ある、特に君のような者には」

「俺のような? さっきの同じっていうのと関係しているってことか?」

「流石頭の回転が早い。そうだ、だからこそ見せようと思ったのだ。君だから見せる、言い換えれば君しか見ることができない品だ。そして、君が気に入ればわしはそれを譲ってもいいと思っている。ただし、この老いぼれの自慢を見るだけであっても、一つだけ約束事がある。見たもののことを他言せぬこと、一切誰にもしゃべらないと約束してもらわねばならないがな」

「なんだよ、危ないものなのか」

「爆発するとか、武器とかそういう類じゃない、それを持ってるのはこの世界でたった一人、わしだけだからな。変に話されると困ることになるんだ」

「ふぅん、なんだか面白いね、見るだけでもいいなら見ようかな」

「おぉ! そうこなくっちゃ。ついて来い、こっちだ」

 老人が視線を送ってチカゲの手を取り歩き出す先はゴミの山。まさか不要になったゴミを処分したいために連れて行こうとしてるんじゃないだろうなと疑いもあったが、見るだけでもと言っているし大丈夫だろうとチカゲはついて行く。

 一番大きなゴミの山を抜けたところに少しくぼんだ場所があり、老人がそこにおいてあるゴミを少しよければ地面に設置された扉が現れた。

「こんな所に扉が」

「この集積所は遥か昔の集積所でな。現在の都市のゴミがここに集まってきているわけじゃない」

「そ、そうなのか?」

「なんだ、自分の街のことも知らないのか。ここに都市を作る際に処分も考えられたが、どうせまた移転するのだからと処分は見送って、大きな壁を作り、見える物を見えない様にして無視し続けた。その結果、誰もがこの場所の存在を忘れてしまったんだよ」

「へぇ、まるで俺みたいな場所だな」

 ぽつりと呟いたチカゲの言葉に老人は答えることなく、視線だけを送って扉を開ける。開かれた扉には人が一人、やっと通れるほどの階段が見え、それが地下深くに続いていて、まるで地獄への入り口のようにチカゲには見えた。

「ここに、入るのか?」

「なんだ、怖いのか? 頭でっかちに育っておいて怖がりとはな」

「こ、怖かねぇよ。ただ、何っていうかゴミの中に入るのが嫌なだけだ」

「そうかい、なら大丈夫だぞ。この中にゴミは無い。ほれ、これ持って先に入れ」

「懐中電灯? それに、先にって俺から下りるわけ?」

「こんな場所でも誰が来るかわからんからな。扉は閉めておかんといかん。扉を閉めれば真っ暗だぞ。わしが先に下りても良いがお前、この扉の閉め方わかるか?」

 老人に言われ、しぶしぶ先に階段を下りていけば、背中の方でガチャンと扉が閉じられた音が聞こえる。

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