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「少年。そんなにこの老人が気にかかるのかね?」
チカゲの方を見ることなく老人は言い、チカゲはビクンと体を揺らして固まる。立ち止まることも無く、振り向くことも無かったためチカゲは自分がついていっているのが老人にばれているとは思って居なかった。
「どうした? 気にかかるのかと聞いているのだが、答えが無いのぉ」
ゴミしかないその場所に響く老人の声にチカゲは喉を上下させゆっくり体を壁から出す。
「うん、とても気になるよ。どうしてかって聞かれると困るけど」
「そうか、きっと君はわしと同じなのだろうな」
「同じ? 全然違うと思うけど」
首をかしげ瞳に老人を映したまま言うチカゲに、体を向けた老人はゆっくりと歩み寄ってきた。
相変わらず眼光鋭く、瞳から発せられる力は、一瞬後ずさり逃げてしまいそうになるチカゲの足をその場に留める。老人は口の端に微笑みを浮かべていた。
「君が言う『違う』というのは見てくれのことか? それとも年齢のことか?」
「見た目もそうだし、年齢も。でも一番は俺は俺。爺さんとは違う。同じだったら俺は爺さんで爺さんも俺ってことになるだろ?」
「ふうむ、なるほど妙に頭の回る嫌なやつだな。少年、友達がおらぬだろう」
「居ないけど、別にほしいとも思わないよ。居ると色々面倒だ」
老人は自らが放った嫌味に対して、全く表情を変えることも感情を荒立てることもないチカゲに微笑みを大きくする。
「面倒か、まだまだ若く見えるが、その年で色々悟っているのかの?」
「まだまだでしょ、俺には知らないことも多いし。ただ、俺は気がついた時には一人だったから、その辺の同い年とはちょっと違うし、違うからこそ同い年の中には居られないんだ」
「なるほどな、上々」
そう言って更に口の端を引き上げた老人は咳払いを一つした後、話を元に戻した。
「色々悟りかけている少年の言う通り、わしはわしで、少年は少年だ、人は違う。しかし、似た所がある者もいる。同じといったのはわしと君には似たところがあるという意味だ。君はこの変わり続ける、変化だけを求める世界に違和感を覚えないか?」
「違和感? いや、違和感なんて得には……」
チカゲが老人の言葉に首を振って否定しようとした時、すぐ目の前に老人の、あの鋭い眼光が現れる。
「それはおかしいの。感じたことが無いのならば何故、今この場所に居る?」
「え、えぇっと?」
「街の騒がしさ、それを喜びと感じ、街の流れに身を任せられないのは何故か」
「お、俺は元々静かなのが好きなだけ」
「違う、違うな。ならば自宅の自分の部屋にとどまっていればいいんじゃないのか? だが、君は今まさに時を止め、忘れさられようとしている町にやってきた。決して二度と動き出すことはないこの街に。そして街から出て行くことはしないと宣言した時を止めようとしているわしに着いて来た。何故着いてきた?」
何故、何故と分けのわからない質問攻めにチカゲは少々気分を悪くしみ権に薄く皺を作る。
老人がチカゲに対してしてくる質問のすべてが、自分の中で答えが出る質問ではない。チカゲは半分睨むようにして老人を見つめ、唇をかみ締めじりっと右足を一歩後ろに下げた。
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