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この世界の人間はチカゲがカメラを構え、ファインダーを覗けば否が応でもチカゲの目の前から消えてくれる。
それは留まる事を嫌うゆえの行動。
チカゲの持つカメラは、もう今の時代、闇市でも見ることが出来ない赤茶色のフィルムにその映像を焼き撮るカメラ。
この世界の人間はフィルムカメラを嫌い、恐れる。
理由は簡単、撮られてしまったら最後、決して変えることの出来ない自分の姿を嫌ったからだ。年をとることさえも変化として喜ぶ人々は例え紙の中であろうとも変わらぬことを恐れるようになったのだ。
変わらないことを嫌う彼等だが、自分の記録を頭の中以外にも求める。
故にカメラという媒体自体は存在したが、それはデジタルなものばかり。変化可能な記憶媒体。
今の時代、デジタルなんてものがこの世に普及した頃には考えられないほどの進歩を遂げた。
記録と記憶の媒体。
記録や記憶とは名ばかり、変更可能なただのデータに過ぎないそれらに人々は喜んで記録し、記憶を書き換える。
記憶、変更、上書き、消去。そんな事は太古の昔、人と呼べるものが存在した時から脳と言う記憶媒体で行なわれてきた極普通の行為、別段誰も気にすることの無かった行為。
脳に蓄積される人の記憶。
それはとても曖昧で、それはとても自己愛に満ちている。
だからこそ、はるか昔の人々は、変わる事の無いその一分一秒を留める為に脳とは違う記憶媒体を用意した。
それは例えば、絵であり、言葉であり、文字であり、映像。
それが何時の頃からか、人々は変わらぬ時を縫いとめる事を嫌がるようになった。
変化こそが喜び。
周りが変わり、他人が変わり、己自身が変わることを常とした。
そう、チカゲが生まれ、育ってきたのはそんな世界。
子供の頃はそんな世界でもチカゲは何の違和感も無く生活し、それがおかしいと思うことも無かった。しかし、少年時代のある日からチカゲは自分を無理やり変えることをせず、自然に委ねるようになり、変わらなければならないという気持ちもなくなる。
それは、偶然手にしたカメラがきっかけだった。
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