大きな音を立てて床にそれが置かれると男たちは慌ててその場を離れる。

 そこにはいかにも重厚で、いかにも仰々しい銀色の金庫のような箱が一つ。

 そのあまりにもな様子は毎度のことであったが、目にするたびにチカゲは呆れたような声で言う。

「はぁ、相変わらず厳重で馬鹿馬鹿しい」

 暴れて人を喰うような凶暴な獣でもない、ただの機械なのにと付け足せば、その場に居た上官がチカゲを睨みつけた。

「厳重なのは当然だろう、こんな危険物、本当ならば運びたくも無い物だ」

「たかがカメラじゃないか。アンタたちだって持っているだろう? 大げさだな」

 布団に横たわり、肘をついて手で頭を支えながら金庫を見るチカゲの様子を、軍人は直ぐ傍に立って訝しげに見下ろす。

「そう思っているのは貴様だけだ」

 軍人のつぶやきに口の端を上げて少し微笑んだチカゲ。

 じっと見つめる金庫は、一向に開かれることが無く、チカゲは促すように男の見下ろす視線に自分の視線を絡めて柔らかく微笑み、軍人は眉間の皺を更に深く刻んで嫌々ながら咳払いをした。

 金庫の近くに控えていた男がびくりと体を揺らし、恐れるような瞳でチカゲの傍の軍人を見る。

「大丈夫だ。この男が触らなければ時は止まらぬ」

 恐れる男に向かって顎で開けろと指示しながら言えば、男は意を決したように数個の鍵を取り出し深呼吸を一つした後、金庫の扉を一つずつ開いていく。震える手で1枚目、2枚目と鍵を外して扉を開け、5度同じ行為が繰り返されると、中から漆黒に輝くカメラが現れた。

 カメラの姿を見たチカゲは片方の口角を上げ、のんべんだらりとしていたはずの体を機敏に動かし、静止する上官の姿と逃げようとする男の姿を目に映しながらてカメラを手にする。

 情けない叫び声を上げて逃げ惑う新兵に対し、プライドがあるのか逃げたい衝動を何とかこらえ、足を震わせながらチカゲに怒鳴る上官の男。

 さらにその上官より前に出てチカゲに向かって銃口を突きつける軍人。

 チカゲはそんな様子も面白そうにファインダーから其々の男達を覗き込んだ。

「何をするつもりだ?」

「記念に1枚、どうかな?」

 上官からはファインダーを覗いたまま、妖しく引き上げられる唇だけが見え、足元からはいずるように上がってくる寒気を感じつつ「撤収」と怒鳴った。

「悪趣味だな、貴様を見ていると反吐が出る」

 叫びながら逃げ惑う音が響き渡る中、軍人はチカゲに向かってつきだしていた銃口を下げ、睨みつけながら言い放つ。

「次までに何とかして捕まえろ! それが貴様の義務であり役目だ」

 軍人の威厳のある足音が遠ざかり、扉が閉まれば、何個となく鍵がかけられる音が聞こえてチカゲは構えていたカメラを下ろした。

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