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少しつまらないとチカゲが思っていると、体をわたっていた上下する動きが止まり、どうやら目的地に着いたのか、乗り物から降ろされ枷に繋がれたロープを引っ張られながら暫く言いなりのまま歩く。
「入れ」
相変わらず短い言葉で命令されて入った部屋で枷がはずされた。
開放されたチカゲは自由になった手足を動かし、辺りをぐるりと見渡した。
たった一人の無害な人間の輸送に数10人の軍人が事を成す。
以前、チカゲが聞いた所によれば、移転自体を執り行うのは中隊程度の人数が動いているらしい。
だが実際チカゲが出会っているのは数人であり、それは被害を最小限にするためなのだそう。その数人ですら、チカゲが歩けば体をびくりと揺らして、避けるようにしてチカゲに道を譲る。
軍人たちのその様子に失笑しながら間を通り窓を開け放し、高い金網が迫って来ている庭にでたチカゲは街の景色を眺めた。
「へぇ、今度はここか。この風景は見覚えがある。確かオルビネの都市だ。知ってるかなぁ、俺はこの都市で……」
「黙れ」
少し弾んだ声で外の景色を眺めたまま話し始めたチカゲの言葉を、ものの見事にチカゲの背中から一言で軍人は遮る。
(本当に今回の連中は面白くもなんとも無い)
チカゲは軍人のほうへ振り返ることなく金網越しの景色を目に映しつつ大きなため息を吐いた。
罪人となってから数え切れないほど住まいを変えさせられ、チカゲ自身数える事を止めてしまっている。
チカゲはそれを数えることが無駄であるということを知っていた。始めは面白半分で数えていたが、今となっては面白くもなんとも無いこと。
日々、人との関わりを持つことは許されないが、最低限生活できるだけの物品を与えられ、更には希望し希望が通ればその品物を受け取ることも出来るので苦労というものも無い。
だがやはり、たった一人という変化の無い毎日に狂ってしまいそうになる。
チカゲ自身は別に変化を望んでいないわけではない。ただ楽しみを楽しみとして、時間を過ごしたいだけだが、何も無い何も起こらない生活の中では自身で変化を求めることでしか楽しみは生まれなかった。
常に何かしらの変化を求め「面白いこと」を探すようになったのは変化の無い毎日を何とか過ごしていくための苦肉の策。
だが、それも一人の空間ではすぐに飽きる。だからこそ、この引越しは楽しいもののはずなのだが、今回ははずれを引いてしまったようだ。
チカゲは特別一人でこうして隔離されているが、他の罪人は其々に決められた刑務所にて其々の監視の下過ごしている。
この世界で罪人は法律によって裁かれ収監されはしても、実際に死刑などの刑が執行されることはない。
なぜなら、裁いた法律そのものが変化するからだ。
一秒前までは有罪の罪人であったものが無罪になることもある。
例えば、死刑となっていたとして死刑執行、そのほんの僅かな時間差で無罪となったとしよう。
本人もそうだが、いつの時代も弱みを見せればそれをつつく人間は数多く居る。マスコミが面白おかしく取り上げ、自分の基盤を揺るがしてしまうのは面白くない。
それは変化をし続ける政府であっても同じこと。
誰であろうと、ましてや変化し続ける面倒な法に携わるものは起こってしまった不測の事態のその中に自らが入ることを嫌う。
事なかれ主義。
それが一番この世界には必要なものであった。
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