何度目かの引越しの今日、いつも通りチカゲの元には銃を持った軍服姿の男が4人現れた。

 チカゲが収容されている場所は普通の場所ではない。

 他人の変化を留めてしまう恐れのあるチカゲに与えられる住処は、人々がすでに居なくなった都市の一角。決して人が寄り付かぬ、興味本位でやってくることなどできない場所。

 つまり、チカゲ以外の誰の変化も留められることのない場所であり、人々の変化を留めることの出来ない場所。

 無粋な男たちがやってきた今回のこの場所は、一際高いビルの最上階に位置している。窓はあっても見えるのは崩れ去った街並みとそれを飲み込もうとしている、どこまでも広がる緑と青の自然だけ。人々が激しく変化し続ける新たな都市はこの場所から見えぬ遠い場所にある。

 チカゲはいつだって、人々の記憶からすでに忘れ去られた都市のどこかに隔離されていた。

 変わることを主とする人々は次々と首都の所在地までも変化させ、転々と移り住む。固定の場所を持っているようでありながら、実体としては遊牧しているような不思議な都市国家であり、残り少なくなった人間の世界だった。

 都市が移転すれば、チカゲも移動を余儀なくされる。

 チカゲが居る範囲から都市が見えても、都市から誰かがチカゲのもとに訪ねることができてもいけないからだ。

 実際は移り住まなくてもその条件を満たしていることのほうが多いのだが、念には念をと移動させられてしまう。

 チカゲにとって、そのいつくるか分からない移動は久しぶりの人との出会いであり、言葉を発する機会でもあった。

 慣れてしまってきているとはいえ、やはり一人では言葉を発する事自体が少なくなる。

 移動する際には必ず手足に枷をはめられる。

 それらの煩わしさはあるものの、移転するという出来事自体は少しの楽しみとなっていた。

 チカゲの存在を知る者は少数であり、移動の際も実際はチカゲがどんな罪で囚われているのかを知るのはその場に居る上官のみの場合が多い。

 上官からは恐らく凶悪犯とでも吹き込まれているのだろう、下っ端の者たちは腫れ物にさわるように決してチカゲと言葉を交わさないし視線を合わせることもしない。

 以前出会ったことのある上官であればいくつかの言葉を交わすこともするが、この仕事は精神的にかなりの負担を伴うらしく4度同じ者がやってきたことは無かった。

 久しぶりの移転となる今日も、チカゲは移動する途中にさまざまな言葉を発する。

 そのほとんどは他愛の無い話。

「今日は気持ちの良い天気だ」

 とか、

「今はどんなことが流行っているんだ?」

 とか。

 数言でも返事が返ってくれば面白いのだが、今日の軍人は少々のりが悪く、帰ってくるのは無言か「黙れ」の一言のみだった。

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