新企画「自殺した警察官の遺体から拳銃を盗んで地面に埋めた4人の子供が秘密を共有した証として弾丸を各人が1発ずつ持つことにしたけど、数年後にその中の一人が拳銃で射殺されてから始まるラブコメ」


 当時、4人は小学生だった。

 激しい雨が降っていた。6月の薄暗い放課後だった。

 ザーザーと雨音で足音がかき消される。濡れた草の香りが鼻孔をくすぐる。

 雨の音を貫いてパンッと破裂音がした。花火の匂いがした。


 4人はヒトの死体を見つけた。


 まだ若い警察官の死体だった。

 死体は頭から血を流していて、手には拳銃が握られていた。

 4人は警察官の遺体から拳銃を盗んだ。

 装弾数5発のリボルバーだ。

 その行動に合理的な理由はない。子供らしいその場のノリというやつだ。

 鬱病を患った警察官が拳銃自殺した事件は、その日のうちに大騒ぎとなった。

 街を何十台ものパトカーが走り回った。

 市が設置した防災無線は、拳銃を盗んだ危険人物が近くにいると警告した。

 怖くなった4人は、拳銃を近くの山に埋めることにした。

 4人は秘密を共有した証として、拳銃から抜いた銃弾を各自が1発ずつ持つことにした。


 葉崎はざき亮平りょうへい

 不破ふわ翔太しょうた

 氷室ひむろ沙耶さや

 洞口ほらぐち佳奈かな


 誰にも言えない秘密を共有した4人は成長して高校生になっていた。

 あの頃から変わった関係。あの頃と変わらない付き合い。

 成長した自分たち。変わらない友情。壊れた友情。

 あの頃とは異なる4人の関係。

 子供でない。大人でもない。力はないが何でもできそうな気がする。

 子供以上で大人未満。

 思春期の不安定さに揺れる4人が同じ場所で再び揃うことは……二度とない。

 死体が発見された。死因は射殺だった。

 犠牲者の氏名は、不破翔太。

 あの日、秘密を共有した4人の一人だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 6月の雨が降る日に、不破ふわ翔太しょうたの葬儀は行われた。

 彼の葬儀には高校生の男女を中心とした100人を超える人が参列した。

 会場では誰に命じられたわけでもなく、高校の友人と中学時代からの友人に自然とグループが分かれた。

 葬儀はつつがなく行われ、葉崎はざき亮平りょうへいは会場を後にする。

 あたりは暗い。雨が強く降っている。


「ちょっといいかな。こういうものだけど」


 警察手帳を持った男たちが、葬儀の参列者に聞き込みをしていた。

 不破翔太にトラブルはなかったか。彼と交際歴のあるパートナーはいるか。

 交友関係は。大金を持っている素振りはなかったか。おかしな点はなかったか。

 葉崎に目をつけた警官は、申し訳なさそうに聞いてきた。


「悲しい時に嫌な思いをさせてごめんね。でも犯人を見つけて不破君の無念を晴らすためには必要なんだ」

「お気になさらず。ただ僕と翔太は中学卒業後は疎遠だったので」

「ということは、キミは同級生?」

「彼と同じ小中でした」


 警察官の質問はありきたりなもので、ほんの数分で終わった。

 葬式会場を立ち去る葉崎は、自宅とは別方向に向かう。

 たっぷりと回り道をして、近所の子どもが『シデン山』と呼ぶ場所に到着した。

 太平洋戦争中、シデンという戦闘機が墜落したことに由来する小高い山だ。


「亮平君、来るのが遅いよ……」

「遅いッ! 暗くて怖い中、どれだけ待ったと思ってるのよ!」


 集合場所で、女子生徒が二人待っていた。

 氷室ひむろ沙耶さや洞口ほらぐち佳奈かなだ。


「悪い。人目が気になって遠回りしていた。状況が状況だけにな」

「……翔太を殺したのは、亮平君じゃないよね?」

「沙耶、疑うのは駄目。私は沙耶も亮平も無実だと信じている。この中の誰かが翔太を殺すなんて……ありえない。信じたくない。だからそれを確かめに来たんでしょ」

「氷室の言うとおりだ」


 葉崎は、見覚えるのある木に視線を向ける。

 この場所と形で間違いない。あの日、4人で根本に拳銃を埋めた木だ。


「…………」


 葉崎は、素手で地面を掘り始める。

 雨で柔らかくなった土の下に、泥と錆で覆われた金属製の箱が埋まっていた。

 それを取り出した葉崎は、氷室と洞口を見据えてから言った。


「開けるぞ。いいな」

「……うん」

「早く開けてよ。私は信じてるから……」

「その前に、コレを見せ合おう」


 葉崎は、ポケットから小さな銃弾を取り出して手のひらに載せる。

 洞口と氷室も、それぞれが銃弾を取り出して手に載せる。

 全員の手に縦断があることを確認した洞口が、止まった息を大きく吐き出した。


「……ほっ。良かった」

「そうとは限らん。翔太の持ってる未発射の弾丸が見つからない限りは、な」

「考えたくないけど、私達の誰かが不破君を殺して……彼の銃弾を奪っていたら、この場で弾丸を見せ合うことは潔白の証明にならないわね」

「そんな……」

「まずは調べる必要がある。俺たちが埋めた拳銃の行方を」


 半泣きの洞口を、硬い表情の氷室が抱きしめる。

 つとめて冷静を振る舞う葉崎は、古びた高級お菓子の箱を開く。


「うそだよね……」


 箱の中身は、空っぽだった。

 あの日、4人で秘密を共有した拳銃はどこにもなかった。








■作者メモ


相上おかき「こんな新企画を考えてみたんですよ。ラノベじゃないけど」

担当編集「ラノベじゃないですねぇー」


 ~完~

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