新企画「学校で一番モテる美少女と夢の中で毎晩イチャラブしてるけど……たぶん相手も同じ夢を見てるっぽいラブコメ」
タイトル案「現実世界でクラス最底辺のゴミクズ男子は、夢の世界で学校で一番モテる美少女と毎日イチャラブしてる ~現実だと学校で一番モテる美少女にゴミクズ扱いされてるけど、たぶんアイツは俺と同じ夢を見てるっぽい~」
同じクラスの
「待ってましたよ、
夢の世界の甘城は、現実世界の甘城と同じ容姿をしている。
幼さが残る童顔の美少女で、低身長の細身だが巨乳と隙がない。
おまけに成績優秀で優しい性格だから、甘城が学校で一番モテるのも当然だろう。
そんな甘城に、俺君は嫌われてるのだが。
それも尋常じゃなく嫌われていて、名前ではなく変態さんと呼ばれる仲だ。
現実世界だと蔑みの眼差しで淡々と罵倒してくる甘城も。
「
夢の世界では、このザマである。
現実世界で俺君をゴミクズ扱いしている甘城は、夢の中では甘えさせ上手だ。
「……バブ」
「ふふ、ぎゅっですね。優奈にいっぱい甘えていいですよ」
俺君は、パジャマ姿な甘城の豊満バストに顔を埋める。
両手でパジャマをまさぐって、女の子の匂いと柔らかさを堪能しまくる。
「バブー」
「よしよし。今日もツラかったですね」
「ばぶばぶー、今日もキツかった……もう学校なんて行きたくない……」
「うんうん。主人くんは頑張ったですよ」
「バブバブー、現実世界の甘城に酷いことを言われた……もう頑張れない」
「よちよち。主人くんは悪くないです」
アタマをヨシヨシ。キスちゅっちゅっ。
はだけたパジャマ。おっぱいちゅっちゅっ。
日々のストレスで心が壊れた俺君は、甘城のパジャマに頭を入れて甘えている。
ひどいザマだ。親に見せたら泣かれる。しかしそれがいい。
駄目人間に甘えられる甘城もまんざらではなく、とろける声で喘ぐのだ。
「んんっ、あっ……エッチぃですよ」
白く透き通った美肌を紅潮させる甘城は、ぷくーと頬を膨らませて言う。
彼女はクスッと優しく笑いながら、俺君の耳元でささやいた。
「現実でわたしに酷いことを言われたのなら、夢のわたしに復讐していいですよ」
「ば、バブっ!? そんなことはできない!」
「わたしがお仕置きを所望してるんです。だからいっぱいお仕置きしてくださいね」
「……ごくり」
俺君が、生唾を飲み込んだ。
夢の中の甘城は、なぜかマニアックなプレイを好む。
それもハードな変態プレイが大好きで、ぶっちゃけ俺君はドン引きしている。
先日も「性転換した主人くんとレズプレイしたい」と言われて困った。
シたけど。スゴくヨカッタ。
「見たいですよね? 両手両足を縛られたわたしが、エッチなおしおきをされて、恥ずかしくて泣いたり、何度も何度も強制的に気持ちよくさせられたり、あんなところやこんなところにいろいろされて……現実世界で主人くんを罵倒してるわたしが服従するブザマな姿を見たいですよね……ふふっ」
学校一の美少女に甘美で蠱惑的に妖艶でエロい口調で誘惑されたら断れない。
「とりあえず部屋を変えましょうか」
甘城が笑うと、一瞬で部屋が変化する。
ラブホテルを思わせる部屋は、拷問部屋の
「ここは夢の世界ですから。念じるだけでなんでもできて、なんでも作れます」
「ほんと都合がいいよな……」
「肯定します。ここなら現実世界で不可能なプレイが山ほどできるんです」
甘城は、大きな箱を抱えていた。
箱の中には、ゼリーを思わせるブヨブヨがうごめいている。
「なんだ、そいつは?」
「この子は『女の子の服だけを溶かすスライム』です」
「また妙なものを作りやがって……」
「わたし、前から興味あったんです。スライムに犯されるプレイに」
「この変態が……先日の親指サイズに縮小した俺とのプレイよりマシだけど」
「アレも良かったですよ。気持ち良すぎて意識が飛びそうでした」
「そして親指サイズの俺は、甘城に潰されて死にかけた……」
「はて? 夢の世界で死んだら、どうなるのでしょうか?」
「試さないからな! 絶対に試さないからな!」
「じゃあ話をスライムに戻しますけど」
「マジでスライム責めをしろと申すのか……」
「はい、好きなだけ手足を拘束されたわたしを凌辱してください。この子は設定だと
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――――朝か」
朝日が差し込み、小鳥がチュンチュン鳴いている。
昨晩も、夢の中で存分にイチャラブを楽しんだ。
俺君主人は、なぜか毎回同じシチュエーションの夢を見る。
クラスメイトの学校で一番モテる美少女の甘城優奈とイチャラブする夢だ。
俺君の夢に出てくる甘城のキャラは、現実世界の甘城と異なる。
真面目で礼儀正しく正義感の強い堅物な甘城と違って、夢の中の甘城は甘やかせ上手で性的好奇心が強くてマニアックなプレイを好むドスケベ少女なのだ。
思春期の童貞男子が見る夢とはいえ、欲望に忠実すぎる。
「はぁー。夢の世界は天国でも、現実のツラきことよ……」
夢のおかげでストレスもぶっ飛んだが、新しい一日が始まると思えば憂鬱になる。
――最底辺のゴミクズ男子。
それが、現実世界の
都内の進学校に通う俺君は、全校生徒のほぼ全員からイジメを受けている。
彼にとって登校は、毎日の苦行に他ならない。
それでも学校に通うのは、イジメに耐え忍んで野望を果たすためだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日もエグいな……」
朝、授業前の教室で俺君は呟いた。
もう慣れっこの定例行事だが、彼の机は陰湿な嫌がらせで凌辱されていた。
机全体を侮辱の落書きで埋め尽くされ、紙コップに入った花が飾られている。
教科書を入れるスペースにはゴミが詰まっていた、
「…………」
俺君は、無言で片付けを始める。
ゴミと紙コップを袋に入れて、油性ペンで書かれた落書きと雑巾で格闘する。
その様子を眺めていたクラスの連中は声を出して笑った。
「ププッ、みじめすぎっしょ……www」
「くすくす、よく学校に来れるよねwww」
「はやく死ねよwww」
俺君は、陰湿なイジメを受けている。
教室に味方はいない。教師さえも敵だ。この境遇は常人に耐えられないだろう。
それでも生きていられるのは、夢のイチャラブのおかげだ。
夢の世界で甘城とイチャラブしてるから、俺君は地獄の学校生活に耐えている。
「おはようございます、変態さん。今日もブザマですね」
「おはよう甘城」
声のする方を振り向くと、思わず息を呑むほどの美少女がいた。
幼さが残る童顔で、低身長の細身だがバストは豊満。
「俺に挨拶してくれるのは甘城だけだ。泣けてくるぜ」
「気持ち悪いです。泣くならトイレの個室で泣いてください。あなたのキモい涙なんて見たくないです。あとクラスメイトで隣の席ですから朝の挨拶ぐらいはしますよ。たとえそれが『靴下ティータイム』で『下着のぬか漬け』で『検便ルパン』な変態さんのあなたでも」
「……冤罪だ。どの事件も犯人は俺じゃない」
「犯人は全員そう言います。あなたは盗んだわたしの検便を何に使おうと……あ、言わなくていいです。なにかとても気持ち悪い返事が来そうなので」
ジト目で真顔の甘城は、淡々と罵声を浴びせてくる。
夢の世界の甘城と比べて現実の甘城はご覧の有様。精神的DVが激しい。
「靴下ティータイムも、下着のぬか漬けも、検便ルパンも、俺じゃない……」
半泣きの俺君は、自身の評価を地に落とした三大事件の犯人説を否定した。
三大事件は、俺君の高校生活をどん底に落とした元凶だ。
第一の事件『靴下ティータイム』は、靴下盗難事件だ。
海外の調査研究によると、生徒が裸足で授業を受けると成績が向上するという。
海外研究の国内実証実験に選ばれたのが、俺君の高校だった。
俺君の教室の生徒達は、全員が裸足で授業を受けていた。
そして、女子生徒の靴下盗難事件が起きる。
学校側は持ち物検査を行い、結果として盗まれた靴下は発見された。
そう、俺君のカバンの水筒から。
容疑者の俺君は「俺じゃない!」と、潔白を訴えた。
しかし水筒は俺君の所有物で、証拠はないが彼を犯人と断定する者は多かった。
この事件では、俺君の水筒から女子生徒の靴下が発見された。
ゆえに、俺君が女子生徒の靴下でお茶を作って飲んだという話が拡散した。
この事件は『靴下ティータイム』と命名され、文部科学省の実験は中止になった。
高校と省庁の強い希望で隠蔽された事件は、校外に広まることはなかった。
第一の事件の時点では、俺君を犯人と信じない生徒もいた。
高校デビューから数ヶ月、彼はクラスメイトに慕われ信頼されていたのだ。
俺君が犯人なんて嘘だ。真犯人が別にいるはず。
そんな意見もあったが、第二の事件『ぱんつのぬか漬け』が起きる。
当時は夏だった。
プールの授業が終わると、更衣室で女子生徒が騒ぎ出した。
ぱんつがない。誰かがぱんつを盗んだ。
怒り心頭なノーパンの女子たちは、第一容疑者である俺君の持ち物検査を行った。
前回の事件もあるが、俺君はプールの授業を欠席していたのだ。
彼が授業を欠席した理由は、陰湿なイジメで水着を破かれたせいだった。
熱中症を予防する名目で、見学の生徒は授業中に図書室で自習を命じられていた。
この時、プールを欠席した男子生徒は俺君だけ。
しかも運が悪いことに、俺君は自習の時間にトイレで席を立っていた。
容疑者として怪しまれて当然だが、俺君は検査を受け入れた。
自分は無実だと通学カバンを開くと、謎のジップロックが発見された。
ジップロックには、ぬか漬けにされた女子のぱんつが入っていた。
盗んだぱんつをぬか漬けにする猟奇的な事件のキモさに、ある女子は悲鳴を上げ、ある女子は嗚咽を漏らして泣き、ある女子は口元を抑えてトイレに走った。
俺君は「俺じゃない!」と無実を主張したが、それを信じる人はいない。
この事件は『ぱんつのぬか漬け』と命名された。
第一の事件と第二の事件で、学校が誇るS級変態となった俺君。
彼は自らの潔白を訴えながら信頼回復に邁進した。
俺君は過酷なイジメに耐えながら、校内の多くの事件や理不尽を解決した。
政治的信条から親が自衛官の生徒の点数を操作していた教師の悪行を証明した。
学食のおばちゃんが食材を規定より安価で粗悪なモノに変えて差額を食材業者から賄賂として受け取っていた汚職事件を告発した。
学校側に理不尽なブラック校則の撤廃交渉を行い、見事廃止に追い込んだ。
地道な信頼回復活動のおかげで、生徒の中に俺君を受け入れる者も出てきた。
俺君が学校で笑う頻度が増えた。陰湿な誹謗中傷も減った。
この信頼回復の期間、俺君は夢の世界でのイチャラブも封印していた。
夢の世界だろうと甘えは実害しかない。今はストイックに生きるべきと。
夢の世界の甘城は不満げだったが、俺君は「俺は夢の世界に逃げたりはしない。俺は現実世界で真人間として生きる」と、全ての誘いを拒絶して無視を決めていた。
そんな信頼回復の時期に起きたのが、第三の事件『検便ルパン』である。
秋の学園祭で、俺君のクラスは飲食店の出し物をすることになった。
学祭で飲食をやるには、保健所の検便検査を受ける必要がある。
とある女子の検便が盗まれる事件が起きた。
検便を盗まれた女子は学校で一番モテる美少女の甘城優奈だった。
真っ先に疑われたのは俺君だった。彼は持ち物検査を受け入れた。
もちろん甘城の検便は、俺君の通学カバンから見つかった。
隠蔽体質な高校の策略で、校内を震撼させた事件は表沙汰にはならなかった。
しかし、取り戻されつつあった俺君の評価はマントルまで落下した。
この事件は『検便ルパン』と命名された。
検便ルパン事件が起きた日の夜、俺君は夢の世界の甘城に甘えまくった。
バブバブとオギャって、現実世界の辛さを忘れようとした。
これら三大事件のせいで、俺君の青春は地獄となったのだ。
「油性ペンは勘弁してくれよ……」
俺君が机に書かれた誹謗中傷を拭いていると、甘城が雑巾を持ってくる。
学校で一番モテる美少女は、無言で俺君の机を拭きだす。
視線すら合わそうとしない甘城は、釘を差すように言った。
「変態さん、勘違いしないで下さいよ。わたしは弱いものイジメが嫌いで軽蔑しているだけです。たとえあなたが唾棄すべき変態の犯罪者でも、それは集団でイジメて良い理由になりません。わたしはイジメをやめない人たちへの抗議も込めてあなたの手助けをしますが、変態さんのあなたは大嫌いです」
周囲で笑い転げていた生徒たちが、甘城に不満げな悪態を漏らす。
俺君は、本心から甘城に忠告する。
「やめとけ。おまえもイジメられるぞ」
「べつに構いません。わたしは自分が信じる正義を実行するまでです」
「おまえ、女神さまかよ」
「仮にわたしがイジメられても叩き潰しますし。敵を、手段を選ばず、徹底的に」
「目の殺意がガチっぽい……」
「わたしはいつも本気です。何事も全力でやります」
「さすが校内成績トップの優等生。セリフがいちいちカッコいいぜ」
「校内成績二位と学校の隠蔽体質のおかげで退学を免れてる変態さんは、これ以上わたしを苛立たせるのを控えてくれないでしょうか?」
甘城に罵倒されながら、机の掃除を終わらせた。
学校中から孤立する俺君だが、甘城は例外的な味方だった。
イジメを批判する形で完全な味方ではないが、それでもかなり助かっている。
(こいつが毎晩夢に出てくるのは、俺の無意識な願望のせいかもな……)
俺君が小さな罪悪感を覚えていると、コツンと後頭部に衝撃。
誰かが投げた空っぽのペットボトルが命中。
クラスの連中が爆笑する中、それを無言で拾ってゴミ箱に片付ける俺君は(今日もツライ一日になりそうだ)と、憂鬱な気持ちで天井を見上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼休み。
俺君のランチタイムは校舎の辺境――旧校舎のトイレだった。
そう、教室に居場所はない。
教室にいるとイジメられるので、一人孤独な便所飯で時間を過ごすのだ。
「……泣ける」
俺君は一人暮らしだった。
共働きの両親は仕事で海外に長期滞在中だ。
弁当を作ってくれる家族などいないので、昼食はコンビニの菓子パンだった。
たまにはもっと良いものが食べたいが、海外の両親から毎月振り込まれる生活費は息子がギリギリ生存できるよう計算しつくされたもので、世界に名だたる一流企業のコストカット業務で鍛え抜かれた無慈悲さの前に贅沢は不可能である。
ただでさえ俺君は『とある野望』に生活費を転用しているので余裕がない。
高成績を守るための勉学も手抜きしておらず、放課後バイトする時間さえない。
結果的にしわ寄せは、食事のクオリティーに現れる。
100円もしない菓子パンの袋を開封しようとしたら、その声は聞こえてきた。
「やめてください。人を呼びますよ?」
「呼んでみろ! 人が来るより早くきれいなお顔に一発叩き込んでやる!」
女子と男子が、激しく言い争う声だ。
女子の声は聞き覚えがある。間違いなく甘城の声だ。
「いい加減にしてく……う、あぁ……そのぉ、落ち着いてください」
「ヒヒヒ、てめぇが悪いんだ……オレの誘いを拒否しやがるてめぇが……」
俺君はドアを開け、トイレの窓から旧校舎の裏に飛び出す。
ひとけのない校舎裏で、甘城がチャラそうなイケメン男子に迫られていた。
チャラ男の手にはナイフ。甘城は怯えていた。
「おいコラ。てめぇ……甘城になにしてんだッッ!」
俺君が叫んだのと手が出るのは同時だった。
ノーモーションで放たれた甘城の右ストレートがチャラ男の顎を捉える。
「ァギッ……」
学校で一番モテる美少女の鉄拳でチャラ男の意識は飛んでいった。
俺君は、しばし呆然として、
「……女神さまは、格闘技の経験がおありで?」
「いいえ。香港映画の喧嘩シーンを見たぐらいです」
「おまえ、多才すぎだろ……」
「わたしは人よりいっぱい努力してるから優秀なんですよ、変態さん」
甘城はジト目をそのまま、わずかに緩んだ唇の前で指を左右に揺らす。
学校で一番モテて品行方正で正義感が強くて成績優秀で容姿端麗で実家が資産家な万能チートでドSで精神的DV常習犯な女子高生は、ペコリとお辞儀をして言うのだ。
「まずはお礼を言わせてください。あなたは何もしてませんけど」
「いちいち言葉が辛辣だな……」
「変態さんのおかげでこの方に隙が生じたんです。大活躍だと思いますよ」
「失神してるコイツ、おまえのなんなんだよ……」
「七回コクられて七回フッたらストーカーにジョブチェンジした先輩です。先日まで付き合ってくれなきゃ死ぬとほざいてましたが、本日ついに交際してくれないと殺すまで症状が悪化したのでやむを得ず撲殺処分しました」
「哀れな男だ……」
「きっと中途半端にモテるせいで勘違いして、わたしにフラれた現実が受け入れられなかったんでしょうね。死なない程度に力を控えたので放置一択です。ナイフなんかでイキってますけど、どうせ何もできないビビリさんだから警察に突き出す必要もありませんし」
脅威とすら認識してもらえない、チャラ男先輩が可哀想すぎた。
甘城は、ほんの僅かに頬を緩ませて言う。
「変態さん、すこしだけ見直しましたよ。1ピコグラムほどですけど」
「1兆分の1グラムも見直されて嬉しいぜ……」
「わたしの感謝が1キログラムを超えたら……おや?」
甘城は、喋っている途中で俺君が持っている菓子パンに気づいた。
「あなたのお昼ごはん、まさかそれだけですか?」
「そうだが?」
「……うにゅぅ~~!」
「どうしたんだ? とつぜん発情期みたいな声で唸りだして?」
「うーみゅ~、わたしは悩んでいます……変態さんのお昼ごはんがあまりに貧相なので、自分のお弁当を恵んであげようか悩んでるのです……」
「それは口に出して言うことじゃないだろ……つうか、実質何もしてないのにそこまで要求しねーから」
「変態さんの意見は求めてません。わたしが一人で悩んでいるのです……今日だけは甘やかしてもいいような気もしますし、でも現実で甘やかすのは駄目ですし、いちど甘やかすと自分に歯止めが効かなくなりそうですし、今日限定でお弁当を恵んであげるどころか変態さんに毎日お弁当を作ってあげようと思ったりもして、今回だけは特例でピンチを助けて頂いたお礼だしセーフとか……ア"~ッ、もう決めました!」
ほっぺを桜色に染める甘城は、ビシッと人差し指を向けながら叫んだ。
「今日から毎日、学校のある日は変態さんにお弁当を作ります! でも勘違いしないでくださいね! わたしは決して変態さんを甘やかすのが大好き……はわわっ、大好きじゃないです! むしろ変態さんは大嫌いです! とにかく! 毎日一人暮らしで貧乏生活な変態さんに栄養バランスを考えたお弁当を作ってあげますから、今日中にアレルギーの有無と食材の好き嫌いを教えてください! なお食材費はわたしが負担します!」
予想もしなかった提案に、俺君は言葉を失う。
自分を嫌ってる女子が嫌いな男に毎日弁当を作ってくれる理由が分からない。
自分の昼飯が嫌悪を上回る同情を買うほど酷いのか。
顔を耳まで真っ赤に染めた甘城は、悩める男子に涙目で迫ってくる。
「はぁはぁ……まっ、まさか拒否なんてしませんよね?」
「なんで息が上がってんだよ」
「うるさいです! とにかくお返事をくださいッ!」
「おまえの弁当か。他の男に転売したら儲かりそうだな」
「はっ倒しますよ?」
「オッケー。ジョークだから身構えるな
「ふしゅぅー、ふしゅぅー……じゃあ、わたしのお弁当を食べて頂けると?」
「食べるから、荒い吐息でなんかの体術を繰り出す構えはやめろ!」
困惑しながらも、甘城のあのネタを問い詰めるのは今だと判断した。
「甘城、弁当の件はありがたく受ける」
「いいですか! 別に変態さんが好きとかじゃないですからね!」
「それは分かった。受けるついでに聞かせてくれ」
「はい、なにをでしょうか……って、キャッ!? へっ、変態さん……な、な」
俺君は、甘城の背後の壁に手をついて迫る。
いわゆる壁ドンというやつで、恋愛シチュの王道的な迫り方だが、いまは違う。
この壁ドンは、甘城を暴力的に威圧して逃さないためのものだ。
殺意とも嗜虐とも異なる、冷酷に獲物を追い詰めるハンターの目つきで。
俺君は、動揺して頬を染める甘城に問いかけた。
「甘城は、なぜ俺のカバンに自分の検便を紛れ込ませたんだ?」
そう、第三の事件『検便ルパン』の犯人は甘城だった。
それを俺君は掴んでいて、以前から犯行動機を問うタイミングを伺っていた。
甘城の頬の紅潮がサァーと引いて、額に浮かぶのは大粒の汗。
「……変態さんは、突然なにを言い出すのですか?」
「とぼけるなよ。つぎに甘城は証拠があるのか――と言うだろうから先に教えてやる。二回もカバンに異物混入されたら、誰だって対策のひとつやふたつは準備する」
俺君は、可能な限り感情を廃した真顔で問い詰める。
あたふたと動揺する、自分をハメた女を。
「俺は自分の机の棚の奥を改造して超小型の監視カメラを仕込んでいた」
「……盗撮ですね」
「黙れ」
燃え上がる激情を鎮火しながら、俺君は努めて冷静に威圧する。
許しがたい甘城を、この場で殴りたいほどの怒りがある。
それをしない程度の冷静さはあるが、相手の返答次第では分からない。
「冤罪の事件後、俺はカメラを回収して動画をチェックした。映っていたのは甘城の姿だった」
「……言いがかりです。それに教科書を入れるスペースに仕掛けたカメラでわたしと断定できるのですか? 画角の関係で下半身しか映らないのではないでしょうか?」
「正解だよ。さすが成績一位は賢いな。反論は予測していたから調べ済みだ。動画に映っていた女子生徒の下半身が甘城なのかは徹底的にな」
「…………」
「おまえの冬用制服のスカートの左側には小さなシミがある。そのシミの位置と形状が動画のものと一致していた。丈がハイソックスのブランド靴下も甘城が所有しているものと同一だった。動画には下半身だけではなく腕も映っていた。甘城がよく腕に巻いている78万円もするパステルピンクのフランクミューラーの時計もバッチリ撮影されていて、それと同じものを学校につけて登校する生徒は他にいない」
顔面蒼白で言葉を失う甘城に、俺君は声のボリュームはそのまま語気を強める。
「反論があるなら受けて立つが?」
「……その時計は、祖父からの誕生日プレゼントです」
「甘城の爺さんに感謝するぜ。おかげで犯人の断定はだいぶラクになった」
「俺君くんは……わ、わたしに、どうして欲しいのですか?」
「もう俺を変態さんと呼ばないのか。随分と従順になったじゃないか」
「わたしが悪いことをしたのは事実です……ですが、それを公表されては」
「おまえは学校に居られなくなるだろうな」
この女、完全に堕ちた。
成功して守るべきものが多いやつほど、脅迫は有効だ。
これまでずっと耐え忍んできた、俺君の嗜虐心と征服欲が満たされる。
残りは復讐心を満たすだけだが、それにはまだ早い。
自分をハメた女を破滅させるのは容易いが、この女にはまだ利用価値がある。
「ご、ごめんなさい……あれには理由があって……」
「俺が許すかどうかは、甘城の態度次第だ」
「土下座しろというならします……だから事実の公表だけは……」
「甘城、俺の奴隷になるか?」
「……えっ?」
「俺の命令をなんでも聞く奴隷になれ。それが事実の公表を一時停止する条件だ」
「奴隷なんて……」
「拒否権があると思ってんのか?」
獲物を睥睨する捕食者の気分だった。
力にて弱者を蹂躙し、生命の選択権を簒奪する優越感に酔いしれる。
涙を浮かべて怯える甘城は、震える声で言った。
「
「いい心がけだ」
「あのぉ、わたしに何を……」
「俺は名誉を取り戻す」
揺るぎない決意のもと、俺君は断言した。
俺君の評価をマントルに沈めた三大事件は全て冤罪だ。
第一事件と第二事件の犯人は、甘城ではない。
俺君は2つの事件に関して、そう確信できるだけの調査を進めている。
靴下ティータイムと、ぱんつのぬか漬け。
2つの事件の犯人にたどり着き、それを世間に公表しなければいけない。
「俺は冤罪を晴らす。第一の事件と第二の事件の真相を暴き、真犯人を見つける。すでにある程度は目星を付けている……が、確信と証拠が足りない。だから犯人をあぶり出すための協力者を必要としている」
「わたしにスパイをしろと?」
「甘城は顔の通りが良さそうだからな。それに弱みもあってスパイに最適だ」
「……悪い人ですね」
「否定はしないが、無実の俺を検便ルパンに仕立てた極悪人には負けるな」
「それには……理由があったんです……ッ!」
怒りを言葉にはらませながら、甘城は反論した。
理由だと、面白い。
上の立場に気を良くする俺君は命じるのだ。
「理由があるなら聞かせてみろ。俺のカバンに検便を入れた目的を全て話せ」
「えっ、あっ……それは……入れた理由は、そのっ///」
顔面蒼白だった甘城のほっぺたが、スイッチを切り替えたように赤く煮沸する。
なにが起きたのか、顔全体から湯気まで出している。
赤面して興奮する甘城は、しどろもどろになりながら、
「……
「は?」
「俺君くんが、夢の中の俺君くんが、わたしに甘えてくれないのが悪いんです!」
「…………」
フリーズ。時が止まる。
思考停止。脳が理解の拒否をしています。
「…………もういちど頼む」
「ずっと夢の世界でイチャラブしてくれたのに……名誉回復計画とかやり始めた頃から『俺は夢の世界に逃げない。俺は現実世界で名誉回復を成し遂げる』とか言って、わたしと甘々でイチャラブなコトを拒否したじゃないですか!」
「……あったな。そんな時期」
俺君は回想する。
一時期、夢の世界の甘城と一切のイチャラブを避けていた時期があった。
――夢に溺れては夢は成せない。
――夢の世界は自分の妄想で、妄想に浸ってはいけない。
そんなストイックな理由で、夢の世界のイチャラブを封印したのだ。
夢の世界の甘城は怒った。誘惑や色仕掛けをしてきた。話し合おうと迫ってきた。
その全てを拒絶した俺君は、現実世界で戦うことを決意していた。
しかし、その決意は崩壊する。
そう、甘城が起こした検便ルパン事件で全ての努力が水泡に帰したからだ。
「夢の世界でイチャラブしてくれなくなって、欲求不満になったわたしは考えたんです……現実世界の俺君くんの心を砕けば、また夢の世界で現実逃避してくれるんじゃないかって……」
「ちょっと待て。その話しぶり、甘城も俺と同じ夢を……」
嗜虐にニタっと嗤っていたはずの俺君の顔面は、いつのまにか蒼白だった。
全身をガクガクと震えさせて言葉を紡いだ。
「あのエロい夢を見てたのは、俺だけじゃなくて……」
「わたしも同じ夢に参加してましたよ! もちろん毎日です!」」
「ウ"ア"ア"ア"ア"――ッ!!?」
俺君はその場で膝をつき、奇声をあげながら地面を転がりまくった。
――ぜんぶ知られてた!
――俺の性癖、クラスの女子にぜんぶ晒してた!
覚悟を決めたのか羞恥でハイになってるのか、ケタケタと笑う甘城が言うのだ。
「母乳神拳☆百烈☆乳首吸い……」
「ひギャァァァ――ッ!」
「なんなのです……この字面だけでアタマが悪くなるプレイは……」
「オヒィィィぃ~~!」
「あなたの考案した『黒ストファイターズⅡ』もドン引きでしたよ……」
「もういい! 黙れ!」
「黒ストの製造会社に謝ってください……あれは夢だろうが懲役ものです……」
「おまえだって、悦んでたじゃねーか!」
「いくら馬鹿らしくても感じちゃったもんはしょうがないんです! わたしのお尻でも散々楽しんでくれましたよね! わたしのお尻に
「おんぎゃぁー!」
地面に倒れてピクピクと震える俺君は、羞恥で瀕死だった。
限界まで赤面して恥じらう甘城も、自分が夢でやらかした数々に興奮している。
「クソ
「ま、待ってください!」
「プレイその1、夢のチートで12歳に若返った俺とおねショタお風呂プレイ!」
「……はふぅ!」
ブシュ――と、甘城が鼻血を吹いた。
瞳をぐるぐると回しながら、四つん這いになってピクピクと震えている。
「あ、あのプレイは……どえらく興奮しましたっ」
「おまえの性癖はマニアックすぎるんだよ! どんな脳ミソしてたら、俺を触手に変身させて自分を性的に攻めさせるプレイが思いつく!」
「はにゅぅぅぅう!」
「甘城が強く望んだアレ、野外露出猫耳おしっこ我慢プレイもあったよな……」
「みゃー! みゃーみゃー!」
「夢の世界のチートで作った公園に、おしっこを我慢している全裸に首輪と猫耳だけを装着した甘城をお散歩に連れて行って……」
「もうやめてください! わたしが死んでしまいます!」
「あとは……剃毛」
「ア"ア"ア"――ッ! 夢の世界が悪いんですよ! 夢の世界が念じるだけでどんなプレイでも実現するチートだから……わたしもおちんちんを生やして」
「おい馬鹿やめろそれ口に出すな!」
「出したのは、俺君くんのお口だけじゃありません!」
「それ以上喋ったら口を縫い付けるぞッ、クソ
「どっちのお口を縫い付けるとっ///」
「上だよ!」
俺君と甘城は、互いに地面を這いつくばりながら罵り合う。
ハァハァと息を荒げる甘城は、ハァハァと息を荒げる俺君に提案するのだ。
「わたしたちは、互いに互いの秘密を握ってしまいましたね……」
「俺が握った秘密は現実世界のネタだ……おまえが握っている夢の世界のネタを世間が信じると思えん……」
ゼェゼェと肩で息をしながら、互いに互いの性癖を握られた二人は衰弱する。
この物語は、たぶん復讐劇である。
冤罪でS級変態に仕立て上げられた主人公の
■作者メモ
(これ、夢の世界とかの設定いらなくね?)
(現実世界の冤罪事件でS級変態に仕立てられた主人公が、優等生なヒロインの弱みを握って奴隷として利用した上で、事件の真犯人に迫る復讐劇でいいじゃん)
こんな理由でボツ。
現実世界で険悪な関係にある主人公とヒロインが毎晩同じ夢を見る
→主人公は自分の見ている夢だと思いこんでいた。
→しかし、ヒロインも自分と同じ夢を見ていることが判明する。
→互いに夢の世界の恥ずかしい秘密を握り合い、二人の現実世界の関係が変化する
発想はこんな組み立て方でした。
脳内プロットで終わってましたが、こうして冒頭部分だけ形にした次第です。
こちらの新企画「○○なラブコメ」シリーズは、起承転結を最後までしっかりと描いた10万文字の作品を書くほどの価値はないけど、アイデアとネタはちょっと書いてみたい作品の冒頭部分だけを書いて晒してみる企画です。
なんで3000文字前後で片付けるつもりが、12000文字になったのかは分かりません。
書き始める前の時点で「絶対に1万文字を超える」という確信がありましたが、なぜか懸念と今回の企画のコンセプトを無視して2000文字ほど試しに書いたら楽しくなって12000文字になっていました。相上おかきとかいう馬鹿は死ねばいいのに……
レビューや応援コメントで感想やご意見をいただけたら嬉しいです。
月に1度ぐらいのペースで、様々な理由で脳内プロットのまま終わった作品の供養をしていけたらいいなーと考えています。
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