新企画「○○な○○○のラブコメ!」

相上おかき

新企画「第3巻でクーデレを好きになるラブコメ ~初恋コンプレックスの主人公に告白した素直クールなヒロインの愛情表現がストレートすぎて破壊力がヤバい!~


 二人だけの教室を、淡い夕焼けが浸食していく。

 校庭で部活に励む男子の掛け声に、生徒の帰宅を促す放課後のチャイムが混ざる。

 普段賑やかな教室は、重苦しい静寂で満たされていた。


「…………」

「…………」


 男子高校生の俺君おれき主人あるとを、放課後の教室に呼び出した人物。

 それは、同じクラスの美少女だった。


「静宮。そろそろ喋ったらどうだ?」

「…………」


 静宮しずみや静花しずかは、寡黙なクラスメイトだ。

 自ら口を開くことはめったになく、話しかけても会話は長続きしない。


 常に無表情で喜怒哀楽に乏しい静宮は、旧家の令嬢を思わせる美少女だ。

 その美貌ゆえ狙う男子も多かったが、静宮のゴシップネタは聞いたことがない。


(チャラ男がお手上げするのも分かる。コイツは重すぎる)


 静宮は無表情のまま、長いまつげの澄んだ瞳で俺君を見つめていた。


「用がないなら帰る。用があるなら何か喋れ」

「…………」

「ったく」


 俺君はサジを投げて、通学カバンに手を伸ばした。

 自宅に帰ろうとする俺君に、静宮は固く閉じられた唇を開く。


「オレ君。これを見て」

「やっと喋りやがったな。見ろって……おい」


 俺君おれきは、言葉の途中で声を失った。

 無表情の静宮がスカートをたくしあげて、ぱんつを見せてきたからだ。


「…………」

「…………」


 窓辺から差し込む沈みかけの夕日が、二人だけの教室を淡いオレンジ色に染める。

 ぱんつに視線が釘付けの俺君に、静宮は首を傾げながら言った。


「やっぱり、おかしい?」

「おかしいに決まってんだろうが!」


 真顔でスッとぼける静宮に、俺君は華麗なツッコミを決める。

 戸惑う俺君に、相変わらずの無表情フェイスな静宮が言うのだ。


「見せるだけじゃ駄目? なら脱ぐべき?」

「真顔で妙な相談する前に、まずはスカートをおろしてくれ……」

「うん」


 スカートを戻した静宮は、無垢な瞳で「じぃぃー」と俺君を見つめる。

 そして、ポツリと問うのだ。


「ぱんつ、嬉しかった?」

「嬉しくねぇよ! 困りきってるわ!」

「オレ君もおかしい人? 年頃の男の子は女の子のぱんつを見たら喜ぶはず?」

「おいコラ。今のセリフは聞き捨てならねぇぞ」


 あだ名がオレ君おれくん俺君おれきは、ニタっと犬歯を邪悪に剥き出して語りだす。


「いいか静宮。男が女の子のぱんつを見て興奮するのは事実だ」

「うん」

「しかし考えてみろ。男が布切れ如きで興奮するのはおかしくないか?」

「おかしい」

「その通りだ。仮に男がぱんつで興奮する生態を持つのなら、下着売り場や幽霊の額についてる三角形の布切れに興奮しないとおかしい。つまり男はぱんつを見て喜んでいるわけじゃない。男が見て興奮するのはぱんつではなく、ぱんつを見られて恥ずかしがる女の子だ。女の子の恥じらいがぱんつに価値を与え、見てはいけない背徳感がぱんつを唯一無二のプレミアに昇華させる。アニメや漫画でぱんつを見られて恥じらう女の子の尊さといったら……それに対して静宮の無反応はなんだっ! 無表情でぱんつを見せられて喜べと言われても、男はピクリとも反応しないんだよ!」

「なるほど」


 静宮は無表情をそのままに、キョトンと瞳を丸くする。


「男の子にぱんつを見られて恥ずかしくない、わたしがおかしい?」


 静宮は表情ひとつ変えず、首を傾げた悩んだ仕草をする。

 そんな静宮のクラスの扱いは、高嶺の花ではなく不思議ちゃんだ。

 コトバを選べば個性的で、ハッキリ言えば変人。

 いつイジメの標的になってもおかしくない彼女は、今の立ち位置で悪くない。

 俺君はそう考えていたが、それは間違いだった。


「わたしには羞恥心がない」


 夕日の差し込む教室で、いつもと同じ無表情はそのまま。

 静宮は、淡々と言葉を続けた。


「嬉しいも悲しいも怒ることも悲しいのも苦手。わたしは他人に感情を伝える方法が分からない。みんなが当たり前にできることが苦手。だから自分を変えたい」

「なるほどな。それで俺を呼びだしたわけか」


 静宮は、首をこくこく肯定の形に動かして言う。


「オレ君。喜怒哀楽のないわたしを、感情のないわたしを変える協力をして」


 純粋無垢な瞳で見つめられて、俺君は戸惑う。


 静宮は何も考えていないようで、実は一人で悩んでいたらしい。

 そんな彼女から協力を迫られたら、根が善人の俺君が断れるはずもない。


「俺で良ければ協力する」

「うれしい」

「だが最初に聞かせてもらう。静宮、おまえ誰かに恋してるだろ?」

「うん。好きな人ならいるよ」

「だろうな。女が自分を変えたい時は、昔から恋愛絡みと決まってる」


 ヤレヤレとため息交じりに、俺君は吐き捨てた。

 それが悪い事とは思わないが、恋愛相談ならもっと適任者に頼んでほしい。


「すごく好きな人がいる」

「わかった、わかった……ほんと素直な女だな」

「……ほめてる?」

「べた褒めだよ。ひとまず静宮に喜怒哀楽の愛があることがわかったな」

「うん」

「だったら次に証明してやる。静宮に喜怒哀楽の全てがあることを」


 俺君は拳を握りしめて、静宮の顔面に叩き込むふりをする。

 無垢な瞳の数センチ手前で寸止めされた拳に、静宮は表情ひとつ崩さない無反応を保ったまま言うのだ。


「うわ。おどろいた」

「無表情の棒読みセリフだと説得力がないな……」

「こわかったよ?」

「だろうな。寸止めで静宮の瞳孔が広がったからな」

「……?」

「人が恐怖を感じたときに瞳孔が散大するのは交感神経が瞳孔拡散神経を刺激して起きる反射だ。これは哺乳類全般に備わった本能で、静宮にも恐怖を覚える感情があることを証明する」

「わたしにも、こわいと思う感情がある?」

「自分でこわいと言ってただろ」

「あっ」

「なにが感情がないから協力しろだ。静宮にはしっかり感情があるじゃないか」

「……でも、わたしは」

「ストップ。静宮は、いま自分がしたことに気づいたか?」

「?」

「静宮が俺に反論したとき、指に力を込めて手を握りしめてただろ」

「うん」

「人に反論することは相手と議論で戦うことだ。その心理が静宮に拳を握る臨戦態勢を取らせた。このことから静宮には相手と議論して打ち負かしてやろうと願う、怒りに基づく闘争の感情があることが分かるだろ?」

「…………」

「どうだ? ネチネチと指摘されてムカついてきたか?」

「……そんなことないよ?」

「嘘だな。いま目線を一瞬だけ左上に向けただろ? その視線の動きは統計上、右利きの人が質問に対して嘘を答えるときに多くする行動パターンだ」


 まくし立てながら、俺君は生徒手帳をポケットから取り出して投げる。

 無表情の静宮は、それを右手でキャッチした。


「右利きだな」

「うん」

「断言してやる。静宮には喜怒哀楽の感情が備わっているし、こうして俺と会話できる以上コミュニケーション能力に問題はない」


 俺君は、キョトンと無表情の静宮に言い放った。

 反論の余地を許さない不敵な笑顔で、無表情のクラスメイトに言葉を続けた。


「今更だが俺のスタンスを明らかにする。俺は静宮の性格を肯定する。感情表現が苦手な静宮の個性を尊重している。おまえは無理に自分を変える必要はない。むしろ自分を肯定して、自分のことを好きになるべきだ。それでも静宮に好きな人ができて、自分を変えたいと願うなら、俺はそれを止めないし、手助けができそうなら協力は惜しまない」

「うれしい」


 静宮は、無表情のまま感謝を述べた。

 その平坦な声音は、およそ感情がこもってるように思えない。


 俺君は、ニタっと笑いながら言った。


「さっき右利きは嘘をつく時に目線を一瞬だけ左上に向ける――と解説したよな?」

「うん」

「それは嘘だ。科学的に証明されていないデタラメだ」

「……むっ」


 静宮は、ほんの一瞬だけ。

 まばたきしたら気づかないほど一瞬だけ、頬を不満げに膨らませた。


 常に無表情の静宮を怒らせた満足に浸りながら、俺君は何気なく聞くのだ。


「ところで静宮が好きな人って誰だ? 差し支えなければ教え――」

「オレ君だよ?」

「ブフォ――っ!?」


 無表情で放たれた突然の告白に、オレ君おれくんこと俺君おれきの呼吸がバグる。

 ゲホゲホとむせながら、俺君は言うのだ。


「ちょっと待て!? いまなんて言った!?」

「オレ君が好き。ずっとまえから片思いだった」

「その告白は素直すぎるだろ!? つか、好きな人のために性格を変えたいって……」

「オレ君のためだよ――ダメ?」

「ラブが直球ストレートすぎて返事に困るんだがっ!?」

「返事は、今じゃなくていいよ」


 無表情の静宮は、無感情な淡々とした声音で。

 それでもハッキリと感じられる、強い心の揺れ動きを含ませながら言った。


「オレ君に、わたし以外の好きな子がいることはしってるから」

「…………あぁ」


 純粋無垢な告白をしてきた静宮を騙しても、優しいウソにはならない。

 偽りの返事は、彼女を傷つけると判断した。


 無表情の静宮は、淡々と言葉を続けてきた。


「わたしはオレ君が好き。だけどオレ君はそうじゃない。だから教えて欲しい。どうすればわたしを好きになってくれるか、どんなわたしならオレ君が好きになってくれるか、を」


 それを本人に聞くなと、心のなかで毒づく。

 藤宮の曇りなき告白に、どんな返事をすれば良いか分からない。


 言葉に詰まる俺君。

 静宮は、スカートに手をかけて――


「えい」

「待て!? なぜこのタイミングで、またスカートをめくる!?」

「い・ろ・じ・か・け・?」

「や、め、て、く、れ!」

「うえも脱ぐ?」

「俺の返事が返ってくる前に脱ぎ始めるなら、最初から聞くんじゃねぇよ……」

「脱ぐより、ぬがせたい?」

「どこで覚えた、その男心をくすぐるフェチズムへの理解!?」


 超展開過ぎて、アタマが追いつかない!

 唐突なエロ展開に困惑する俺君は、今でも初恋の人への想いを捨てられずにいた。

 俺君が、恋い焦がれる相手と結ばれる可能性は……ゼロである。


 この物語は、愛情表現がストレートな素直クールの静宮しずみや静花しずかと、いまも初恋の未練を断ち切れずにいる俺君おれき主人あるとが相思相愛になるまでを描いたラブコメ――の、冒頭試作品である。





※作者メモ

 いわゆる「素直クール」と呼ばれるヒロイン。

 無表情で淡々と喋る感情の起伏に乏しいヒロインを魅力的に描写するのは難しい。

 長門とかタバサとかレキみたいな、感情表現が乏しい女の子。

 描き切るには文章力が必要ですわ。

 あと↑に出したキャラで自分の年齢を実感して凹んでる

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