ヘヴィ・レイン 7
そう。
コーヒーは暖かかったが、それはそれとして雨は再び降り出していた。
ズズゥン……!! と。
建物が崩れ落ちるかのような地響きが遠くから伝わってきた。
音源は間違いなくあの公民館だ。間違いなく。
誓の魔法使いとしての直感が、あそこに強力な魔法使いが来襲したことを告げていたから。
(満里奈が……! くそっ!!)
誓は自身の読みの甘さを恨みながら傘も差さずに駆け出した。
この猿ヶ辻なら、ANNAも面倒事を恐れておいそれとは手を出せないなどと。
決して的はずれな予測でもなかろう。だがそれはあくまで、ANNAがそれらの面倒事に対して平和的に、人や物の損害をなるべく出さないように向き合うという前提に基づくものだ。
もしANNAにそのつもりがなかったとしたら? 組織の重要な秘密を守るためなら多少の面倒は暴力で踏み倒すつもりでいたとしたら?
一人の人間を11年間も軟禁しておくような秘密組織が、それをしないと何故思える?
そして、誓が戻ってきた時。
公民館は、もう跡形もなく崩落していた。
そこにあったのは瓦礫の山だった。
下からは弱々しい魔力の気配が滲み出ている。この冷気の魔力は満里奈のものだ……。
そして瓦礫の上には、より強大で恐ろしく、しかも誓にとってはよく馴染みのある魔力の源が座っていた。
白い制服に身を包み、青ざめた銀髪と碧眼を持つ、その小柄な女性は……!
「き……教官ッ……!!」
「ハロー。一足遅かったわね」
彼女は──深川夏海1佐は、降り注ぐ雨を魔法の熱気で蒸発させつつ、足を組んで悠然とセブンスターを吸っていた。
「教官が……やったんですか?」
「そうよ。あんたたち、レーアとグルになって知っちゃいけないこと知ろうとしたんでしょう? だからアタシが上官として、あんたたちを情報局へ突き出しに来たの」
「!! れ、レーアさんは……?」
「さあ、どうかしらね……今頃もう捕まってるんじゃない?」
夏海は肩を竦めながら立ち上がると、タバコの火を掌に押し付けて消した。
そして吸い殻を脇へ放り投げる。夏海の両目がネオンサインじみた光を漏らしたかと思うと、投げられたチャコールフィルターに碧い火が点き、燃やし尽くしていく。
首から下げたペンダント型のIDを外し、
脚を肩幅に開き、腕を十字に組み、さながら特撮のヒーローのような力強い構えを取る。
「!!!!!!」
「何にせよ、あんたも大人しく言うことを聞いてくれるつもりはないんでしょ?」
その瞳がさらに強い光を漏らす。
夏海が魔法を使うたびに漏れるあの光は、眼球を含む身体の大部分が特殊な機械化を施されていることの証左だ。だがその性質は一般的な機械化手術とは全くもって異なる。
『それ』がどれほどの破壊力を秘めたものか、誓は彼女の教え子としてよく知っていた。一度起動されれば勝ち目はもうなくなるだろう。
故に
夏海はそれを瓦礫の山の上から見下ろしつつ、全身に碧い魔力エネルギーを纏っていく!
「だからもう、本気で行かせてもらうわ」
「させるかぁッ!!」
「遅いッ!!」
飛びかかる誓を前に、夏海は組んだ腕を大きく回し、右の拳を空へ突き上げた!
瞬間、閃光と爆風と熱波が小さな身体から発せられる……!!
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