ヘヴィ・レイン 3

 ふねは完全な自律で動いていたが、有人そうていのためのコンソールも一応備え付けられていた。

 ただし席は一人分しかない。そこで満里奈には外の見張りについてもらい、誓が操艇にあたることにした。機械類の扱いなら電撃の魔法使いである誓の方が長けている。

 古びた規格の複合生体認証を魔法によるクラッキングでちょろまかしてやる。『おはようございます。有人操船モードを起動しました』と少女を模した合成音声が発され、真っ暗な操舵室の中に電子海図やレーダー画面、艇首方位や速力を表示したホログラムが浮かび上がる。

 ……機関のバッテリー残量があと18パーセントしかない。それにきっすいもかなり浅い。

 恐らくこのふねはもう荷物の配送を終えた後で、あとは倉庫に戻って次の配送を待つだけだったのだろう。コンテナの中は空に相違ない。


(お疲れ様。でも悪いけど、おやすみの前にもう一航海してもらうから)


 誓はふねを労いつつ魔力をバッテリーに流し込んだ。

 残量が急速に増えて100パーセントになる。

 そして先程の『真っ暗な一画』ことさるつじに向かうべくとりかじを切った。

 ──その時!


 後ろから警察めいたサイレンが複数聞こえてきた……!

 コンソールの通信機から男の声がする、


せんに通告する。ただちに機関を停止せよ。さもなくば強制停船措置に移行する』


 と。

 舷窓スカッツルから身を乗り出して後ろを振り返る。

 するとそこでは、艇首に六連装ガトリング銃『ミニガン』を装備し、舷側を白黒に塗装した高速艇3隻が編隊を組んで追いかけてきていた。

 ANNA総局の警備艇である。

 銃座に就いているのはΑアルファの機械化一般人ノーマル兵だ!


(増援部隊か! 流石情報局、対処が早い……!)

『園寺誓准尉だな。繰り返す、ただちに機関を停止せよ。我々にこれ以上同胞を撃たせるな』


 誓はVHFのマイクを取って答えた。


「申し訳ないんですが、そういうわけにはいきません」

『それは残念だな。ではまた撃つしかあるまい』


 ブツッ、とあちら側のマイクが置かれた。


「来るよ満里奈!」

「了解!」


 誓は艇外の満里奈に呼びかけるとエンジン操作レバーを握り、最大出力まで押し込んだ。

 さらに魔力を流し込んで出力120パーセントまでオーバーブーストしてやる。

 と同時に、ぶおおおおっ!! という猛烈な駆動音が聞こえてきた。Αアルファていたいの機銃掃射だ。

 満里奈が氷の防壁魔法を展開してその弾雨を防いでいる。防ぎながらも撃ち返す。

 艇尾カメラ映像の画面を3条の青ざめた光線が迸り、ミニガンの銃座を氷漬けにせんと襲いかか──

 

 ──れない!


「「!!!???」」


 何たることか。

 満里奈の魔法の射線上に青ざめた光の魔法陣が現れ、攻撃を遮ってしまったのだ。

 その魔法使いは三隻のうち真ん中のふねの操舵室上に仁王立ちしていた。他のΑアルファ同様の黒い対高等魔法防護アンチメイジックベストを着込み、ヘルメットと覆面で顔を隠しつつ……あろうことか汎用型の『杖』で応戦していた。

 しかし汎用型の『杖』など、誓たちがホマレゲッコウといった特化型武装を手にすると同時に使わなくなってしまったような代物ではないか。

 要は前線配備されている戦闘機に練習機で立ち向かっているようなものだ。何という異次元のだれだろうか!?

 彼はΑアルファていたいの頭上に射撃魔法陣を5つも展開し、青ざめた閃光の奔流を発射してきた!


「負けるかぁぁッ!!」


 満里奈も踏ん張って撃ち返す。

 力ある射撃魔法使い同士の本気の殴り合いが始まった!

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