ルナティック・トゥルース・オブ・ザット・デイズ・フラッシュ 4

 それから小夜村は、とうとうと語り始めた。


「まずあの日あめひとじまを吹き飛ばした爆発についてだが──あれは対消滅によるものではない。

「「えっ?」」

「順を追って説明しようか。事の始まりは例の件の1ヶ月前、2039年の2月だった。島を管理していたANNAの事務局が非常動員令を発動して、島にある全ての設備と人員を可及的速やかに撤収させろと命じてきたんだ。撤収先は福島のばらにあるANNAの秘密基地で、動かせる物はチリ一つ残さずそこへ運び込めと言われた。もちろん爆発物も全部そこへ移した。島に置いてきたのはどうしても動かせない保管施設ぐらいのものだったから、あの爆発が島の反物質によるものだっていうのはあり得ないんだ。何せ爆発するものが無いわけだからね」


 満里奈は手を小さく挙げた。


「じゃあ激しい魔法戦っていうのは……?」

「1ヶ月もかけて撤収作業を済ませた後、私たちはその基地で身柄を拘束された。大体2週間程度だったかな。一体何故撤収させたのか、何故身柄を拘束するのかなどは何も教えてもらえなかったんだが、基地職員の会話を盗み聞きすることはできた。そして私たちの研究所の名目上の新所長に船橋光莉1佐、つまり君のははぎみが任命されたことと、もぬけの殻となった天人島にANNAの魔法戦力一個大隊が配備されたことを知った」

「わたしの母がその部隊の指揮官だったんですか?」

「いや違う。指揮官は他にいた。何と言ったか……確かヴァルター、とか言っていたかな。総局の機動部隊で作戦統括官をやっていたエリート魔法使いさ。そいつが指揮官だったらしい」

「じゃあその部隊は何のために……一体何と戦ったんですか?」

「それについては……。満里奈さん、ここから先が君にとって本当につらいところなのだが」

「教えてください。お願いします」

「分かった……。じゃあはっきり申し上げよう。彼らは……」


 小夜村は一度息を大きく吸い込むと、意を決したようにこう続けた。






「……………………君のははぎみと戦ったんだよ」






「「……………………は???」」

「ああそうだ、そうだとも。彼らは確かに言っていたんだ。船橋光莉1佐を、殺害無害化するって」

「どうして?」


 満里奈は驚くほど冷たい声でそう問うた。

 小夜村はそれにビクついたのか、冷や汗を垂らしながら答えた。


「何故かは私にも分からない。というか基地の職員ですらはっきりしたことは知らされていないようだった……。だがとにかく彼らは君のははぎみを殺すことを試みたんだ、魔法戦力を一個大隊ぶんも投入してね……そして激しい戦闘となり、ヴァルター大隊は君のははぎみを殺すことにこそ成功したが、同時に自らも島と一緒に蒸発した。これがあの『事故』の真相なんだ」

「「………………………………」」

「なんでわたしの母は殺されなくちゃならなかったんですか?」

「多分……多分だけど、彼女はANNA上層部の一員としてタイタン計画に反対でもしてたんじゃないかな……。基地の職員がちらっと言っていたんだ、『これもタイタン計画の一環らしい』みたいなことをね。それにあの計画にはかなり怪しい、きな臭いところがあったしな、うん。確かにあの島では対消滅炉が研究されていたが、んだから」


 小夜村はかっと両目を見開き、った笑みを浮かべながら、物凄い早口で捲し立てた。


退だ。これらを全部纏め上げると、そう、ができる。分かるか。あの計画の本当の目的は対消滅炉の実用化なんていう程度の低い話じゃなかったんだ。本命はもう十歩先にあるこの宇宙戦艦の建造だったんだ。これは本当のことだ。艦の図面を描かされている奴だっていたよ。だがこんなモンを造って一体何になるのか。こんなバカみたいな兵器を地上で使うなんて考えられない、異星人との星間戦争が差し迫ってるわけでもない、だったら一体何に使うか、これはもう一つしか考えられない、あれはノアのはこぶねだったんだ、このままイカれ果てていくだけの地球から、“オミクロンドーデカ”のような支配者層が脱出するためのなぁぁ!」

「「……………………」」


 メイドが様子のおかしくなった小夜村を容赦なく羽交い締めにして立ち上がらせた。

 小夜村はメイドに引き摺られていきながら尚も続けた。その目の焦点は合っていなかった。


大災厄カタストロフィが半世紀前のあれっきりだなんてそんな都合のいい話はない。大自然にとって50年なんて時間は誤差みたいなものだ。遠からずもう一度同じような災害が起こるに決まっている。だからこそ“オミクロンドーデカ”のようなこの世界を本当に支配している連中ははこぶねを建造して……だが今の世界の総人口は30億人も…………全員乗せられるふねなど…………それで君のははぎみは…………」


 バタム、ガチャリ、と。

 どこかの部屋のドアが閉められた。きっと小夜村の自室もとい独居房の扉の音であった。

 メイドが廊下を歩いて戻ってくる足音に混ざり、ドン、ドン、ドン、と暴れる音と振動と声が伝わってくる。メイドは誓たちに言った。


「申し訳ないが面会は終わりだ。一度ああなったらもうまともな会話は成り立たん」

「「……………………」」

「後の方に言っていたこともあまり真に受けない方がいいぞ。具体的にはお前の母親がなんたら計画に反対してたーってくだりからな。……とりあえず今日はもう帰れ、次来るときは顔パスにしてやるから」

「「……ありがとうございました」」


 二人はメイドにお辞儀をすると、荷物をまとめてリビングを後にした。

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