ルナティック・トゥルース・オブ・ザット・デイズ・フラッシュ 3

 学生寮の居室よりも広いリビングでソファに座って待っていると、が一人の女性を連れてやってきた。

 二人は立ち上がって礼儀正しくお辞儀をした。


「おお、君たちが例の後輩ちゃんたちか。話はから聞いているよ、よく来てくれたね」


 素晴らしく理想的なモデル体型と艶めいたサラサラの長髪を誇る彼女は低めのハスキーボイスでそう言いつつ、嬉しそうに誓たちの手を順に取った。


「私が小夜村咲良。えっと……ただの一個人の、小夜村咲良だ」

「「ただの??」」

「こうして人と会うのは11年ぶりだからね、何と名乗るべきか分からなくて、つい。昔ならやれ長崎科学技術大学院大学NISTだの三笠グループだのと名前の前にくっつけられたんだがね──さあ座ってくれ。時に、私の助言は有用だったかい?」

「ええ、はい。とても」


 誓はレーア伝いに送られてきた暗号めいたメッセージを思い出しながら答えた。

 メイドのツイスタアカウントを二人に教え、誇り高い元機動隊員である彼女も本マグロでなら釣れると示唆したのは小夜村だった。

 小夜村はそれを聞くと、テーブルの向かいでまたしても嬉しそうな顔をした。


「そうかそうか、それはよかった。それなら彼女のIDの画面をどうにかこうにか盗み見るという涙ぐましい努力をした甲斐があったというものだよ。君たちが例の件のことを知りたがっているのと同じぐらいには、私も例の件のことを教えたかったからね。特に満里奈さんには」

「わたしですか?」

「そう。君のこともあらかたあいつから聞いているとも、ははぎみのことを知りたくてANNAに入られたんだろう?」

「は、はいっ」

「私は例の件にそこまで深く関与していたわけではないし、君のははぎみと直接の面識があったわけでもないが、君のははぎみがどういう立場に置かれていたかなら知っている。私は君がそれを知らされているべきだと思うんだ。子供が親の最期のことを何も知らないなんて、人の道と照らし合わせてあまりに不自然だろう?」


 満里奈は黙って深く頷いていた。

 ことん、と、メイドがコーヒーをテーブルに置いた。ミルクと砂糖も添えられていた。

 小夜村はそれらを全て流し込み、スプーンでかき混ぜながら言う。


「だがこの話は正直なところ、君にとってはあまりにつらい、聞くに堪えないものだとも思う。ここまで来といて今更何をと思われるかもしれんが──覚悟はできているかい?」

「……はい、できてます」


 満里奈はミルクも砂糖も入れず、淹れたての熱くて苦いコーヒーをそのまま飲んだ。

 その様子を見ていた小夜村は、意を決したように膝を叩いた。


「よし、いいだろう。それでは本題に入っていこうじゃないか」

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