マグロ・エゴイスティック 3
そしてその5日後。
誓と満里奈はというと。
例のレーアの友人との面会……に、漕ぎ着けるべく。
海洋省の重装備巡視船『しきね』に乗り込み、洋上での共同作戦に臨んでいた。
『本州南岸の海域では先月末頃から海賊船による襲撃事件が多発しており、一部品目が全国的な品薄状態となっています。海洋省によれば海賊船は遠洋海域から帰還してくる大型漁船を集中的に狙っているとみられ、東京コロニー市の中央卸売市場では本マグロとカツオが一尾も入荷されない日々が続き、特に「泳ぐ純金」とも呼ばれる本マグロについては、赤身1貫の価格が10万円にも達する破局的な大暴騰が起きています』
……次いで
熟練本マグロ漁師だという老人の背後に白い船体の遠洋漁船が映っているが、船首には大きな風穴が空いていた。彼はカメラの前でその穴を指差し、
『これねえ、
と怒りをむき出しにする。
彼の船は辛うじて港まで逃げ切ったが、仲間の船は抵抗も虚しく乗っ取られ、船体ごと漁獲を奪われてしまったそうである。
『全くねえ、許せませんよ。
『
……部屋着姿の誓は一旦テレビを消し、外の空気を吸ってこようと個室を出た。
そして廊下を歩きつつ、自分と満里奈のこれからの行動方針を頭の中で確認する。
まずはっきり言ってしまうと、この本マグロの価格暴騰を引き起こした海賊は
かの魔法テロ組織『ネオ・バプテスト』との繋がりを持つ魔法海賊だということが既に情報局の調べで分かっている。
だからこそこの『しきね』機動部隊は、同じ魔法使いである誓と満里奈を乗せ、海賊が縄張りにしているという駿河湾へ向かいつつあるのだ。
これから二人は、その魔法海賊を倒し。
(本マグロを適正価格に戻す。そして大トロ付きのブロックを手に入れる。その本マグロで三笠がレーアさんの友人に張り付けてる監視員を買収。面会に目を瞑ってもらって、光莉さんの、あの事故の真相を聞き出す──)
──ぼふっ。
「むぎゅっ」
何か大きくて柔らかい、クッションのようなものが顔にぶつかってきて、誓の顔が埋まった。
反射的に閉じた目を開いてみる……すると視界全部が濃紺色で埋め尽くされていて、右端の方には『飛び跳ねるクジラと大波』からなるロゴマークが見切れていた。また黒地に金のストライプからなる胸の階級章も。
あ、まさか、と思って顔を見上げる。
……そこには、この船の中で最も権威と権力のある人物の顔が。即ち、
「……………………」
「すすすすす、すみませんッ!!」
誓は即座に脇へ
まして船長が通る道を塞ぐなんて言語道断だ。
……顔からさあーっと血の気が引くのを誓は感じた。
もしこれが温和な性格の指揮官だったらまだよかったかもしれない、だがこの船長が政府部内で一体何とあだ名されているか……。
『阿修羅』である。現場一筋のキャリアを歩み、拿捕した不審船の数は両手両足の指では数え切れず、彼女の名前を出しただけで降伏する者すらいるという海の女武者なのだ。
魔法使いとか
狭い通路の壁に背中を貼り付けつつ、誓はガタガタ震えた。
何か言うなら早く言って通り過ぎてくれと念じた。
しかし安曇船長は誓をすら遥かに上回る超長身(推定190センチ)を屈め、能面のように無感情な、それでいて妙な
誓はもう怖くて、涙が出そうになった。
「……………………」
「……っ」
「………………なあ」
「はひぃっ」
「お茶しないか?」
「……へ?」
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