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閃光

きょくじつしんぶん』電子版

きゅう11年(2029年)7月28日 12時33分より


『宇宙を切り拓くエネルギー「対消滅」あめひとじまに共同研究所建設へ』


 三笠グループは二七日、対消滅エネルギー実用化に向けた国際共同研究計画「タイタン」をWeb上で発表した。計画は素粒子科学技術研究機構(PST)や鹿島科学技術大学院大学(KIST)の他、米英の研究機関とともに天人島を拠点として進められる。


 対消滅反応は(中略)ごく僅かな燃料から核融合反応をもはるかに凌ぐエネルギー量を得ることができるため、特に「深宇宙」と呼ばれる超遠方の領域へ飛び立つ宇宙船の動力源として注目を集めている。


 久化12年中にも着工予定の共同研究所は主に反物質の生成・保存プラントと実証実験用の小型対消滅炉などからなり、所長には三笠重工業のおおひで氏(50)が就任する。


 大穂氏は「これからの宇宙開発に対消滅エネルギーは必須。人類の文明のさらなる前進のため、必ずや実用化する」と意気込む。




§




『国民日報』号外(2039年3月29日付)より


『天人島で大規模爆発 被害は不明』


 29日午後3時30分ごろ、天人島で極めて大規模な爆発が起きた。すずいさむ内閣官房長官によると、爆発したのは天人島南部にあった三笠グループのタイタン計画共同研究所。島との一切の連絡は途絶しており、被害状況は未だ分かっていない。

 

 三笠グループのいわさきこういち会長は記者会見を開き、「爆発の正確な原因はまだ断定できていない」としながらも、「現時点では研究所で生成・保存していた反物質が何らかの原因により周囲の物質と対消滅反応を起こした可能性が高いと思われる」と述べた。

 

(中略)天人島は1996年の「だいさいやく」を受け、国際的な先進学術研究拠点としてぼうそうはんとう南方沖50キロメートルの洋上に建設された人工島。日本含む各国の大学・企業等が施設を築き、3月1日の時点で約500人の研究者が滞在していた。




§




『このリボンをママだと思ってつけときな』

『それじゃー、ちゃんとパパの言うこと聞くんだぞ。かわいいかわいい、わたしの満里奈!』


 ──西暦2039年3月20日の朝、埠頭にて。

〈タイタン研〉新所長として天人島へつこととなった船橋光莉が、泣きじゃくるまなむすめを抱きしめながらかけた、最後の言葉。




§




 ANNA総局中枢データベース『トリスメギストス』より

 

 ID:jphq05011001

 PASS:****************************************************************


 IDENTIFICATION...COMPLETED.


 船橋 満里奈 さま

 ANNA総局中枢データベース「トリスメギストス」へようこそ。


 ->『タイタン計画 定期・臨時報告書目録(作成:ANNA事務局)』








【警告】


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