第8話 4月2日 火

入学式の翌日、日傘をさして登校した私は職員室の前に立っていた。入学式の事前退場に加えて、初回のホームルームを欠席という、いかにも問題児的結果になってしまったが、担任教師の心象は今からでも出来るだけ良くしておきたい。ノックをしてから扉を開ける。

「失礼します。1年A組の水原です。担任の先生はいらっしゃいますか。」

「水原さんっ」

ガタッと勢い良く席を立ち上り、慌ただしくこちらに歩いてくる落ち着きのない女性は非常に頼りなく見えた。

「昨日はクラスにも職員室にも顔を出さずに帰ってしまったから、心配していたんですよ。」

初担任でとか、いきなり不登校がとか、もごもご言っている彼女が1年A組の担任なのだろう。

「すいません、昨日は体調が優れなくて。」

「あぁ、大丈夫ですよっ、昨日は学校側の説明があったくらいで、自己紹介とかは今日やりますからっ。」

落ち込んでいる生徒を不器用ながら励まそうとしているのか、私より少しだけ目線の高い新米担任は身振り手振りが忙しない。あー、今日自己紹介とかするのか。担任の緊張が移ったのか心臓が早鐘を打ち始める。

「先生、お腹痛くなってきた気がします。」

「えっ!?」

そう言い残して、そそくさとその場を去り保健室へ向かった。


「まさか初日から2日連続とはね。」

保健室のベットに横たわる私に、養護教諭が話しかけてくる。

「お腹痛いです。」

短く返す私に苦笑しながら続ける。

「親がどうとかは言いたくないけれど、医者の子が仮病とはどうなのかしら?」

彼女の目をじーっと見ながら軽く返す。

「なんで知ってるんですか。」

「この辺りじゃ水原医院は有名よ。そこの長女も君も十分有名人ね。」

前半は予想通り、しかし後半は違った。

「へー。」

「あまり興味なさそうね。」

「私は後継ぎじゃありませんから。」

「あの規模の医院ならば、お姉さんと2人で一緒にやっていくことは十分可能じゃないの?」

私はこの養護教諭のことを何も知らない。でも彼女は私のことも、お姉ちゃんのこともよく知っているみたい。何か形容し難い不快感に襲われる。このまま会話を続けていたら本当に具合が悪くなりそうだ。

「そもそも仮病じゃないですよ。」

そう短く告げると、布団に包まり目を閉じた。

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