第7話
夕食を済ませて文音さんと文香さんが帰った後、母に寝室へ呼ばれる。
「はい、服を脱いでね。」
そう言われて下着以外を脱ぎ、制服を畳んでいると母が近づいてきた。
「うーん、やっぱり光ちゃんは細くて筋肉量も健康体より足りないわね。」
医者の母が言うのならば正しいのだろう。
「でも光ちゃんは身体が弱いから激しい運動は避けた方がいいのよね。」
母が言うのならば正しいのかもしれない。
「健康の為には最低限の運動が必要よ。もし体育の授業に出席出来なくても、毎日ストレッチくらいはやった方がいいわね。」
黙って頷くと床のマットに座り、日課のストレッチを始める。この習慣はもう何年になるだろうか、小学生になった頃からかもしれない。身体の状態を確認する母に特に変わった様子はない。
「近々メニューを見直そうかしら。」
そんな母の独り言を聞き流しながら一通りのストレッチを終えると、別の話題を振られる。
「今日、保健の先生から連絡があったわ。」
「あ、そうだよね。」
「体調が優れない日が続いたら、休んだり保健室登校になることが増えるかもしれないと伝えておいたわ。」
「事前に連絡しておいてくれたんだってね。先生が教えてくれた。」
「そうね、高校にもなると中学と違って出席日数の問題があるから、配慮があるのかとかを聞いておいたから安心してちょうだい。」
母の目を下から見上げる。
「そういえば、先生ってお母さんの知り合い?」
母は私の目の奥を見ながらこう返す。
「近所にいる医療関係者ならば、どこかで知り合っているかもしれないわね。」
嘘。一言一句予想通りの回答であり、一連のやり取りで確信する。母が事前に連絡を入れているのならば、その生徒のことを把握していてもおかしくはない。名前を間違えられたのは偶然かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。文香さんが言っていたことも気になるし、保健室は安息の地にはならないみたいだ。
「そうなんだ。今後お世話になる機会が多いかもしれないから、また明日保健室に寄って挨拶してくるね。」
わかったわ、と返す母は立ち上がり、昨日は無かった時計を見る。
「そろそろいい時間だからお風呂に入りましょうか。」
手を引かれて立ち上がる。一度部屋の隅にある機械の目を流し見て寝室を後にした。
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