第3話
目蓋を開けると白い天井が目に入る。よく知る病院みたいだ。体を少し起こすと、白衣を着た女性が机に向かっている後ろ姿が見えた。
「あの。」
「あぁ、起きた?ごめんなさい、君だけだからカーテンをしていなかったわ。」
こちらへ振り返った女性は苦笑いで続ける。
「入学式前に倒れるなんて災難だったわね。残念だけど、クラス分け発表をしてホームルームは既に始まってるわよ。1年A組の水原光さん。」
何で名前を知ってるのかという疑問が浮かんだが、入学式を休んでクラスに出席してない人物など他にいないのだろう。
「一応、光って書いて"ひかり"って読みます。」
「ごめんなさい、"ひかる"じゃないのね、覚えておくわ。それでどうする?今から行けば、途中からホームルームに参加できるけど。」
冗談を言わないで欲しい。入学式で倒れて、初めましてのホームルームに途中参加できるほど肝は据わっていない。出席を重視する養護教諭だと嫌だなーと思いながらちらりと横目で伺うと、何かを察したのか彼女は軽く笑う。
「まあ、体調が優れないのなら今日は仕方無いわね。入学前にお母さんから連絡頂いてますよ。身体のこととか、色々と。」
「あー、そうなんですね、母が連絡を…。それなら今日は少し休んだら帰ります。」
「そう?そういえば親御さんは入学式にいらっしゃっていないのかしら。」
一瞬口を開きかけた時、廊下からドアをノックする音が響く。
「失礼します。うちの子が倒れたみたいで。」
そう言って保健室へ入ってきたのは文香さんだった。
「保護者の方ですか?」
母親と呼ぶには若すぎる人物の登場に少し面食らった養護教諭が問いかけると、文香さんは一瞬考える素振りをしたが、ちらりとこちらを見てから話始める。
「その子のご両親が多忙の為、保護者の代わりに入学式へ参加した家庭教師です。」
「家庭教師?」
「はい。家も近所でプライベートでも交流があるので、姉代わりのようなものです。」
そうなの?とこちらを見てくる保健医に頷いて返す。
「それなら付き添いがいて安心ね。さっき倒れた生徒を1人で返すのは心配だもの。」
そう言う養護教諭を横目に、ベットから起き上がる。
「あら、足。」
そう指摘されてから、タイツに穴が開いて膝を少し擦り剥いていることに気が付いた。
「ここに座って。大したことなさそうだけど、一応消毒をしておきましょう。」
文香さんはテキパキと消毒の準備をする養護教諭を終始眺めている。穴の空いてしまったタイツを脱いで文香さんに預けた後、養護教諭の対面の椅子に座る。彼女を観察する文香さんが気になり、私も倣って養護教諭の目を盗み見た。傷口を観察して、消毒液を浸したガーゼをピンセットで押し当ててくる。
「染みるかしら?」
こちらの視線に違和感を感じたのか問いかけてくる。
「いえ。」
なんとなく脱力したように脚を数センチ開いてみるが、直ぐに彼女は手当を終えて片付けを始めた。脚を戻して文香さんを見るが、やはり彼女は何か養護教諭のことで気になることがあるようだ。
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