第1話

高校の入学式は人生の晴れ舞台の一つ、らしい。写真を撮る親子の群れを横目に校門を潜る。

「待って下さい。」

後ろから聞こえた声と共に、そっと手を掴まれた。

「どうしたの、文香さん。」

振り返りながら声の主に問いかける。

「式までまだ時間があるのだから、せっかくなので写真を撮りますよ。」

「必要なこと?」

「紫音さんも仕事で、付き添いは私1人ですからね。土産話の為にも必要でしょう。」

軽く目を見て、問答は無意味と諦める。

「さ、列に並びますよ。教職員の方が撮ってくれるみたいなので一緒に写りましょう。」

仕方なく手を引かれながら列の最後尾に並ぶ。4月になったばかりのものとは思えない程強く照りつける日光に参りそうになっていると、ふと日が陰った。

「日傘ありがとう。準備が良いね。」

「徒歩圏内通学とはいえ、登校中に倒れられては困ります。明日からも徒歩で通学するのですか?」

「自転車に乗れないから仕方ないね。」

「ならば、せめて日傘でも持って通学した方がいいですね。」

「高校生が日傘さしながら登下校って浮かないかな?」

「あなたがそれを言いますか。」

「…。」

「大丈夫でしょう。そもそも体調を気遣ってとなれば背に腹は代えられないのでは?」

「文香さんはいつも正しいよ。」

なんとなく言い包められたような気がして、皮肉を口にする。

「そういうところは高校生らしいですね。」

「何か言った?」

「人の助言を素直に聞き入れるあなたは聡明ですよ。」

少し開きかけた口を閉じる。少し悔しい様な感じがしただけで、その為に言葉で応報しても得るものはないし、その方が稚拙な気がする。軽く繋がれたままの彼女の手を2、3度握って不満を訴えようとしたが、再び照りつける日差しに目を焼かれる。

「ちょっと、何っ」

「ほら、私達の番です。笑顔でお願いしますよ。」

そう言うと彼女はするりと手を解き、スマホを教職員に手渡しに行った。

(これだから大人は。)

思ってすぐに頭の隅に追いやる。さっき言外に子供だと言われたばかりだった。入学式と書かれた看板の横に立つと、文香さんが斜め後ろに立ち両肩に手を置いてきた。

「随分と似てない姉妹ね。」

「そう見えるかな?」

「きっと、ね。」

軽く頷き、"笑顔をする"。きっと、ずっと残る写真になるのだから。文香さんが必要だと言うものだから。

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