第5話 北極星の種 その一

「私は、先輩のことが好きです!」

「ごめん。私…」

そのあとの言葉は何も、聞こえなかった。


もし私がもっと早く先輩と出会えたら、先輩は私のこと見てくれるかな?

もし私がもっと可愛いく、輝くようになったら、先輩は私のこえを聞いてくれるかな?

もし私が2年早く生まれていたら、先輩は…



「ここって確かに…」

今日から高校生になった私は、新しい一歩を踏み出そうと自分の新たな居場所を探しています。

「おお、将棋部へいらっしゃい!」

「あ、はい!お邪魔します!」


古い教室に棋盤2つ、そこに座った先輩は私を対面に座らせようと手を振った。

「山梨総悟だ、3年生、一応将棋部部長やってます、よろしくね。」

彼はそのまま首を下げ、そして誘うようにコマを並べ始めた。

「星川夢見です、1年生、よろしくお願いします。」

私もそのまま座りかけ、山梨先輩はどうぞのように手をあげた。先手どうぞ、と。


意外なことに山梨先輩は全く強くなかった。


「ははは、きみ強いね。」先輩は大きく口を開けて笑った。

「いえ、そうでもないです。」

先輩に対しては失礼かもしれないけど、これはただの事実です。

私はただの女流2級、将棋界に置いてはただのひよっこ同然。

「あの、ほかの部員さんは?」

「いや、それはね、部員が私一人なんだよ。」

「え?」

「もしきみが入ってくれたらありがたいけど、けどね。」

山梨先輩は棋盤をみて苦しそうな顔で笑った。

「最低3人揃わないと廃部になっちゃうのよね、ははは。」

「じゃ私、手伝います!」

「いいって、手伝うと言っても、やることはもうないし。」

「え?普通にチラシ配ったり勧誘すればいいのでは?」

「学校が配ったガイド見た?各部活の宣伝内容載ってるでしょう?」

「はい、厚すぎて捨てたいくらいの本ですよね。」

「捨てるのは勿体ないよ、3冊重ねば椅子になる。」先輩が何故か誇らしい顔していた。「学校が許される部活の勧誘は、それだけです。つまり生徒の自主性に任せるってわけ。」

「は…」

「でもそれも手伝うと言うなら方法はなくもない。」

「はい!やります!」

「お!素晴らしい心構えだ!いいか…」


耳元でささやくほどの内容じゃないけど、なぜ先輩はこう選んだ。

要するにそんなに難しいことではなかった、通りすがりの人をつかめばいい。


「体験入部は2週間ある、いいか、頼むよ!」

「はい!」

そう言って山梨先輩は姿を消した。




岩槻先輩の話し聞いてからもう2日経った。将棋部のことは自分でなんとかなるけど、生徒会副会長のことは、考えたくないほど考えた。

彩花には少し話したけど、正直彼女にはこんなことに突っ込まなくていい、私を何を選んでも、彩花は絶対の味方だ、これを思うたびに少し心強く感じる。


「栄門。」

「なんだ笹木。」

時は昼休み、青春真最中の高校1年なのに教室の窓から外の雲を眺める男子2人。

「入部決まった?」

「まだ。」

「早くしろよ。」

「へいーへいー」

都会BOY最近は倦怠期かもしれない。

「あと3日しかねえぞ。」

「分かってる。」

「今日バイトは?」

「休み。」

「じゃ一局やるか。」

「うん。」

「放課後ほかの予定あるから、そっち終わったら将棋部行く。」

予習会はサボれない。

「え?今なに?!」

「反応遅えよ。」



「将棋?」三橋さんまるでありえない言葉を聞いたようだ。

「やってみたら?趣味としては頭使うし悪くないと思うけど。」

「そうだよ千里ちゃんも一緒に行こうよ。」

三橋さんと彩花が仲良くなったのはいつからだっけ?

「え?彩花まで?」

「ね、行こう。」さり気なく手を組むのも女の子の特権かな。


「お邪魔しますー」

どうやら対局中だけど…勝負ありか。

「笹木さんまた来てくれましたね!」先に歓迎してくれたのは星川さん。

「星川夢見です、よろしく…」彼女は三橋さんと彩花の手を握って顔を寄せた。

「お願いしゅー」めん!別に剣道はやったことない。

「はいストップ。」

私は教室に入って、栄門の対面に座った。

「栗宮彩花です、」「三橋千里です、」「「よろしくお願いします。」」

「ちなみに二人共生徒会だからね。」まず勧誘ルートを絶たないと。「あとこいつは栄門秀明。」

「おいっす!」

女の子の挨拶は少し長めでした。


「お前やるな、可愛い子二人も連れてきて。星川さんはやらんぞ。」

「星川さんのおやじか。」

くだらない話しながらコマを並べ直した。


「笹木さんもやったことあるの?」星川さんが目を丸めてこっちを見た。

「少しだけ。」

「騙したな!笹木おめぇ!」

やったことないなんで言ってない、2人の場合、将棋は暇つぶしとしては異常に優秀だ。

「じゃみんなの実力見せてみよう!」

笹木VS栄門!彩花VS三橋(星川ルール指導あり)!

三橋さん、将棋やったことないか。

「笹木、泣いても知らんぞ、俺は手加減できないんだ!」

「はいはい。」

久々の将棋、懐かしくないのは嘘です、中学の時こうやって栗宮家でやってた。


女子組はルールの説明もあって、楽しそうにやってる。

こっちに比べたら、栄門のやつ…

「うむ。」「うん!」「よし!」

強気だけど少し騒がしい。

過去に名人が『強い言葉を遣うなよ、弱く見えるぞ』みたいな発言あったっけ。

私は別に嫌いじゃない、真っ直ぐで、攻めるやり方。

でも残念、もっと深く潜らないと、攻めはいつだって攻撃にならない。

「これで。」

「ササキ!裏切り者!」

勝負あり。隣はまだ終わってないみたいから、栄門と少し話すか。

「なあ栄門。」

「なんだ。」

「将棋部入らないか?」

「お前も勧誘かよ!」栄門が少し声を上げた。

「しー」私は隣に目を意識しつづ。

「勧誘はいいから、自分で考える。」栄門も分かったようで。

「入るつもりならもっと将棋のことを考えたほうがいいよ。」

「一回勝ったって調子のるな裏切り者めぇ。」

「そうじゃない。」私はコマを置き始めた。「例えばここ。」

「なにか?」

「ここが6二角成なら。」

「同金…」栄門は少し止まったように見えた。

「そう、でもお前が6二角成指さないことを分かってるから、私はこうした。」

「なる…ほど…ってなんで分かった?」

「お前はお前だから。」

栄門が不可解な顔してきた。

「笹木さん、いいこと言ってるね、ふー」

「ヒィー!」

突然耳に吹風は心臓に悪い!

「殺す気か!」

「いやだよ、いいこと言ってるから彼女たちも聞かせようと思って。」

隣を見たら彩花はニヤニヤしてて、三橋はクスクス笑ってる様子を手で隠そうとしていた。

「栄門さんもよく聞いてね。」

星川さんは先生のように人差し指をぐるぐる回しつづ語り始めた。

「将棋は対人競技、実力あるものが勝つのは当然。でも実力と言うものは色んなものを含まれている。よく言われるのは運、でもそれはそこまで重要じゃないと私は思う。逆に普通に言われた実力とは、将棋に対する理解と応用、それはある程度誰でも手に入れられるものです。じゃ同じ実力を持つ人が対戦したら、誰が勝つと思う?」

彼女はゆっくり左に歩き始めた。

「それは相手をより理解した人の勝ちです。彼を知り己を知れば百戦殆からずということです。だから自分との戦いとも言われる、相手の想像を超え、自分を進化させないと、相手の予想のままになる、そして負ける。」

そして壁の前に向きを変えた。

「でもこれはあくまでも常識、天才と当たったら、そりゃご武運しか言えないけどね。」

そのままゆっくり戻ってきた。

「分かった?」

起立!礼!何も分かりませんでした!

「なるほど。」と呟いたのは三橋さんである。

彩花もなにか分かったように頷いた。

「要するに相手より強くなればいいよね。」

都会BOY御名答!

「…いいやー」星川さんから無念のため息。


2局目、男子組は変わらない、女子組は星川VS彩花になった。説明して実践、基本の基本だ。

三橋さん珍しく嬉しそうな顔して、いつの間にかメモを取っていた。

結論から言うと、星川さんは強い、どこまでは分からない。

彩花は明らかに苦戦しているけど、星川さんは何を試そうとバランスを取っていた、柔らかく攻めると言ったほうが正しいかもしれない。


今日は元々気が向いて遊びに来たわけで、3局はお断りした。

「今度私と一局、やりませんか?」部室から出る時星川さんに止められた。

「時間あったらかもな。」

「入部は?」

「無理かもな。」

「そう、じゃ。」


3人で下校は初めて。

女の子2人だとどうしても私が浮いて見える、だから少しだけ距離を離れた。

その2人が楽しそうに話してるのを見ると、私的にもそれでいいと思った。

盗み聞きじゃないけど、拾った断片によると、三橋さんが将棋に対して興味が湧いてきたらしい、2人も星川さんとメール交換したらしい。

いつ?全然気づかなかった。

途中三橋さんから「あんた本当は頭いいの?」と質問されたけど、私もさあーって手を上げた。




今日は笹木相手に2連続負けた。

驚いたという感情はなかった。悔しいは悔しいけど、なんとなく、あいつはすごいやつだなっと。

将棋始めて7日、俺はどうすればいい?

先週星川さんに勢いで告白して、秒で断られた。冷静になって見たらそりゃ、俺の馬鹿野郎としか言いようがない。

今になって入部届けも出してないし、星川さんも普通に接してくれたし。でも何をすればいい?

何を何をすればいい?

分かんねえー


「はい、プリン。」

「え?!なんだ?お小遣いはやらんよ。」美波が急に優しくなったのは絶対的フラッグ。

「なんがアキ、最近おかしいなって。」

そうか、妹に気を使わせちゃったか。

「すまん。」

「500円。」

「強盗かよ!」

「500円。」

妹には敵わない。


「なに悩んでんの。」美波は隣に座ってテレビを開けた。

「将棋。」別に嘘じゃないけど。

「へープリン美味しいね。」

「ああ。」ソファーから上を見上げてもなにもなかった。

外を見ても、夜空を拝めても、足元が見えるわけじゃない、昔は灯火があった、あった、そしていなくなった。

「もしかしてさ。」

「なにか?」

「アキは女の子に告白して、そしてふられて、今はもう一回告白するか悩んでたり?」

「なんでこんなに生々しいんだよ!」

「顔に書いてあるし。」

「え?!」

美波はくすくす笑った。

「って俺のプリン!500円返せ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

群青の種 cie @kuragemiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ