第4話 5Fからの頼み
昼に一番気心地く休めるところはなんと生徒会室でした。
彩花は同じクラスの子と一緒に昼飯するのが多いからたまにしか来ない。
最近の放課後は予習会と南館の部活チェックする仕事がある故、彩花との待ち合わせは校門になった。
そうだね、一緒に帰ることが知り合いに見られても、減るもんじゃないし。
高校生になってから、すべては予想外前提の予定通りになっていることに、私は感謝の気持ちでいっぱいです。
「え?笹木じゃねえか!」
南館3階、都会BOYと出会った。
「栄門か、ここでってことは将棋部?」と思ったら栄門は逆方向に向かってる。
「何が用事あるの?」
「バイト、今度一局やろうぜ!じゃな!」彼は走り出した。
将棋部室は廊下の奥に埋められたような一部屋です。
ドアを開けたら少し風を感じた、向こう側のカーテンが少し踊っている。
教室の中には棋盤2つと少女1人、コマが下ろすたび綺麗な音が小さな空間に響いている。
夜空色の髪を後ろに高く結ぶ白いリボン、手を伸ばすと前に傾く細い体、紺碧色の瞳に映るのは9x9の世界であった。
キレイな女の子と感心する場合じゃない。
「あ!」目がこっちに向いた。
「どうも、生徒会の…」
彼女はすっと立ち上がって、イチニノサンの勢いで距離を縮めた。
「笹木憂也です。」
「はい!」
「将棋部の…」
「部長は今不在です!」
「あの、なんで手を握るんですか…」
「私と一回やりませんか!」
「はっ?」
これが栄門が一夜しっかり考えたわけか。
「将棋!」
思わず息を呑んでしまった。
「はいーストップ。」私は両手を離して、彼女の肩を軽く叩いた。「これはもう勧誘じゃなく、立派な誘拐です、やめてください。」
「へーでもこうすると男子が喜ぶって部長が言ってた。」
「それは嘘です、もうやめなさい。」そうかもと思ってた。
「はい、わかりました…」すぐ落ち込むのは素直な表現なのかな?
「星川夢見さんですよね?」小柄ゆえ前髪がしっかり目を隠した。「ちなみに部員は何人いますか?」
「部員は2人です、体験入部は1人あります、確か栄門秀吉かなにかの同級生です。」
秀吉って。
でもまだ体験入部か、都会BOYはああ言って、ちゃんと考えてるようだ。
「はい、来週また確認に来ます、よろしくお願いします。では失礼…」
「あの!せっかく来たからやりませんか?」
「今度時間があったらな。では失礼します。」
「はい…ではまたー」
また…か。
先感じたものは悲しさのか寂しさなのかよくわからなかった。
でも分かったのは、1週間以内、部員3人揃わないと、将棋部は解散されることになる。
将棋部から出て、廊下の奥に進むと、空室があった。ドアはロックしていない、教室の角に段ボールが散らかっていた。厚めのほこりが集まった教室。
更に後ろに行くと、緊急階段がある。これで3階は終わりか、明日からは4階。
昔のここは、もっとにぎやかだった気がした。
昼休み生徒会室行こうと思ったら、声かけて来たのは前に座った栄門。
「よー、将棋部入らないか。」
「なんで栄門までも勧誘か。」今日の昼飯は教室だな。「生徒会だから無理。」
「掛け持ちすればいいじゃん、やってる先輩もいるらし。」
「無理言うな、誰だよそんな超人。」
「知らん。」
「あんたが入れば。」
「今はちょっとね。」都会BOYの苦笑いは不味かった。
「先週のやる気は?」
「断れちった。はははー」
これが答えなのか。
バカかアホかわからないけど、新学期1週間で告るやつはどう考えてもおかしい。
「ギリギリ最後で決めるんじゃないよ、こっちに迷惑だ。」
「ったく生徒会に入ったって偉そうに唐揚げいただき!」
「ちょ!」最後に残すつもりの唐揚げくん!
私は思い切り弁当を片手に持つ構えにした。
「お前。」栄門は教室を眺めて、大きく息を吸った。「みんな!笹木の弁当うまいぞ!」
「おい!」
…
反応は特になかった。
一瞬こっち見る人もいるけど、でもちゃんと反応した声は「へー」くらい。
そうだよね、ドラマやアニメじゃないし。
「じゃ私はだし巻きもらおうかなー」
な…!
栄門の表情も大きく揺れた、何もないところに急に現れたこの霊圧はー!
「え?私の顔になにかついたの?」
「あ、いえ、どうぞ。」
霊圧の正体はいつも隣の席にいる堺莉奈。
「お礼にエビフライあげるね。」
2本指ほどの太さを持つエビフライより目を奪われたのはその黒い箸、「色漆によるうさぎの蒔絵」、ネットで見たことある。
高いやつだ…
「えっと、堺さん…」
だし巻きたまごとエビフライ交換とは少し釣り合わないというか。
「いいの。」私の意図を正確に捉えてくれた。「どうせ食べきれないし。」
彼女は二段重ねの弁当箱を見て吐息のようなため息をした。
ため息上手だなっと本気で思ったのは初めて。
「笹木はいいな、俺も弁当ほしい…」
「よかったら私の弁当分けてもいいよ。」透き通る肌に無垢な笑顔。「でも代わりに何をくれるの?」
「え?!や、やめとく。」
栄門が魂を売る未来が見えかけた。
「自分で作れば?」私の弁当は自作じゃないけど、魚を与えるより釣りを授けよう、とのことです。
「え?面倒くさいじゃん。」
「知ってて他人を頼る気?」
「最低ですね。」堺さんも同意見。
考えてみたら堺さんの存在をあんまり意識してないかもしれない。彼女本人の存在感は薄くないはずだけど飛び抜かない。隣の席だから毎日挨拶もしている、放課後は帰宅部らしいです。少し不思議だ。
南館は5階建てです。
なぜ今更重要そうに言うのは、4階に上がった時分かった、階段から上がって、すぐ見えるのは天井から床まで、幅約3mの看板「空文演劇部」、右下に4F~5Fの文字が書かれていた。
空文と書いてそらふみ、由来は初代部長が好きな人に告白したラブレターが空文で、相手の名前にも「空」の文字があるからということらしい。
中学生の時もちょくちょく耳に入れるほど、地方ではそこそこ有名な演劇部だ。
4階は倉庫として使われた教室が多い、大道具、小道具、素材別、時代別、服装も春夏秋冬に分けてたらしい。
5階になると役割別で分けてることが多い、脚本は脚本で、舞台は舞台でみたいな。
軽く回ってみたけど、部員チェックする時は絶対苦労するやつだ。
「5階の上は屋上か。」私は上に繋がる階段を見て少し呟いた。
階段も掃除されてるようなので屋上も使われてるんだよな。
「お!もしかして!」後ろから来た声だ。
「コンドムくん!」
「誰だよそいつ!」思わず叫んでしまった。
分かってはいたけど、会いたくはなかった、やばいやつ、でも予想通りのやつ、イケメンモテモテ先輩をネットで検索してみたらこの人の顔が出そうな人。
「岩槻先輩、はじめまして、笹木憂也です。」
「おう!笹木くん、ごめん、あんまりにも面白いからそれしか覚えてなかった。」
ごめんの気持ちなんで最初からないくせに。
「彼女は…先輩?」岩槻先輩に連れられて、ドレスを着ている子がいた。
「ああ、こいつはー」
「ひぃー!」先輩彼女の背中を思い切り叩いたせいで、彼女が思わず悲鳴をあげた。
「2年の天野見雲です、よろしくね。」
こっちに出した手の意味は握手か。
「1年笹木憂也です、よろしくお願いします。」
よく見たら彼女の姿は多分何かの練習、髪も一目じゃわかりにくい濃いめの茶色ウィッグ、衣装の素材も触り心地良さそう、いいもの使ってることは、演劇部の予算も半端ないことか。
それにしても天野って、先生の妹?
「あ、そう、見雲は男ね。」
え?
「どう、かわいいよね?こいつ男にも人気あるからすごいよー」
「やめて先輩、ドレスが破れたらどうする!」
知らない目から見ると、今の光景は、女の子の後輩を満遍なく揉める変態先輩でした。
「岩槻先輩ってそういう趣味なんだ…」
私はぞっと距離を取った。
「もしそうだとしたら?」岩槻先輩は乗るタイプでした。
「こうする。」私は更に距離を取った。
「じゃ俺は…どぉー!」いきなり天野先輩から腹への直撃。
「もう練習に戻ります!先輩はご自由にどうぞ!」の言葉を残して廊下の角に消えた天野先輩。
「こいつ…!」床でグニョグニョしてるのは日本高校生代表兼生徒会副会長の男でした。
「では私も用事あるので。お疲れー」
「ちょっと待て、話がある。」帰ろうとしたけど止められた。
「用事あるんですけど。」少し強引でも帰りたい。
「5分でいい。」
なんの船に乗らせようとは分からないけど、こういうのっていい予感しなかった。
と考えつづ先輩と一緒に屋上までついた。
ここにする理由はまず他人に聞かれたくないはず。でも内容の予想は全くできなかった。そもそも岩槻覚と言う人との交差点が存在しない。
「笹木くん、私からの頼みが2つある、聞いてくれると助かる。」
第一人称が変わった。
「はい、できる保証はない。」聞くためにここに来たでしょうか。
「1つ目、将棋部に入ってほしい。」
将棋部?
「なんでですか?現状3人は揃えそうだけど。」
廃部に心配するなら、多分栄門が入れば解決するはずですが。
「山ちも私も今年卒業です。贅沢のお願いだけど、将棋部の来年は確保したい。」
山ち?
「あ、山梨総悟、将棋部部長。」
なるほど、でも。
なんでですか?と攻めたいけど、冷静に考えると…
理由なんで3つしかない。山梨先輩か、星川さんか、謎の約束。
「…お断りします、生徒会あるから将棋部には入ることができない。」
「そのへんは大丈夫です、先生から許可もらえば掛け持ちは可能です。もしその気があったら、先生側は私が交渉します。」
「ごめんなさい、私はただの高校生、掛け持ちはちょっと荷が重いかもしれない。」
「名前だけでもいいです。」
ここまでするものなのか。
「考えとく。」
「ありがとう。」
「入るとは言ってない。」
「分かってる。」
「2つ目は?」
「…」
岩槻覚、生徒会副会長、日本高校生代表、趣味はありません。
メールも振る舞いも軽々しい、こんな時に頼まれることって、将棋部入ってほしいも十分真剣だと思っていた。
彼は空を見上げて、長い息を吸って、何かが混ざったような長いため息をした。
「私の代わりに生徒会副会長になってほしい。」
重い冗談は好きじゃない派です。
「理由は?」
学校の生徒会は副会長2名であるのは理由がある、そしてその中1人は必ず3年生であるとこは意味がある。学年間の交流もあって、サポートもあって、3年生じゃないとできないことだってある、生徒会長が生徒の意志を代表するものとしたら、副会長としてはそれに相応しい実力と経験を持たなければいけない。
今岩槻先輩が言ったことは、生徒会歴史に前例を作ると言うことだ。
だから重い冗談は、嫌いです。
岩槻先輩も分かったはず、これは頼み事として大きすぎる。
たとえ前例を作ったとしても、いきなり副会長の仕事をこなすために払わなければいけない時間と労力は計り知れない。なった本人だけじゃなく、周り全員の迷惑になるのもおかしくない。
「全部とは言わない、せめて私が考えるつづける土台場でもいい。」
理由はなにせよ、いい理由にはならない。
「もうないんだ、演劇部にいられる時間が。」
嫌いです。
こんなやつが頭下げて来るとは。
自分勝手、ワガママ、掛け持ちの超人はこいつか。
「三橋さんはダメですか?」
代案です、もしこいつが彩花に頼んだら絶対許さない。
「千里ちゃんは、書記の方が向いてる。」
「じゃそのままやめてほかの2年生や3年生にやらせたら?」
これは愚問だと私も分かっている。
3年生は元々やること多いし勉強に専念しないともいけない、完全な部外者が生徒会副会長やるって言ったら、元々少ない時間を更に生徒会の仕事をこなせるために分けるなんで、やる方がおかしい。
2年生の場合、来年会長や副会長が全員3年生になる、そうなったらわざと学年を分け、学年間の交流を大事にした意味がなくなる。
それでも気持ちはげせなかった。
「ダメだった。」
実験済みか。
「…考えておく。」
「なるべく夏休みまえに返事を…」
「ああ。」
気持ち悪い。
「ありがとう。」
私は見もせずに立ち去った。
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