睡眠薬
また瞼が熱い。朝を迎えたようだ。
…同じ夢を見た。
僕は夢の中に入っているのか?と疑いたくなるほど、現実味を帯びていた。
だけど、夢の僕は華と離れるのを拒んでいた。
そこだけが、唯一違う。だって…
「...って、何馬鹿なことを考えているんだ僕は」
あれは夢なのだ。
だから所詮この考えも空想でしかない。僕は疲れているのだ。
簡単な話だ。
と朝から自問自答を繰り返しながら、学校に行く準備を済ませる。
家を出ると、既に二人は待っていった。
「今日も早いね」
と僕は整えきれなかった髪の毛を手で直しながら言う。
「だって、今日から講義が始まるのに遅刻なんかしたら最悪じゃん。」
と茜に最もらしいことを言われた。
「早く行こうぜ、初日に遅刻なんてしたら面倒だしさ」
時雨の言うとおりに僕等は、遅刻しないように、急ぎ足で大学に向かう。
大学はかなり広い、迷いながらも目的の教室に着く。
「ねぇ、今日大学終わったら、ご飯食べにいかない?」
茜は手を合わせながら提案する。
「えぇ…めんど」
時雨は面倒くさそうに答える。
「僕は全然良いよ。」
三人で久しぶりに外食したいと思い僕は快く返事をする。
「はい!決まり。時雨も来るよね!」
茜は時雨に圧をかけるように問う。
「分かったよ…春斗が行くっていうんならしょうがねえな」
「もぅ…!本当時雨って春斗には甘いよね!」
二人は痴話喧嘩を始める。
周りはチラチラこっちを見ていて羞恥心が半端じゃなかった。
そんなこんなで、初日の講義は終わった。
"...て..あ...ね"帰る途中、不思議な声がした。
何だ今の声は?周りを確認しても、話ながら帰る者や、黙々と一人で帰る者しかいなかった。
「春斗?...大丈夫?」
茜が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「いや...大丈夫少し疲れただけだよ。」
僕は頭を掻きながら答える。
久し振りに三人で食べる食事は美味しかった。
何でもない事を話し合って、昔話をしたり、大学の受験勉強で中々話す時間が取れなかった分を取り戻すかのように僕等は
喋り尽くした。
茜と時雨とはかれこれ10年以上の付き合いだ。
これからもこうしてなんでもないことを話せる日が続けばと僕はこの日強く思った。
そして、僕等は解散して、それぞれの家に帰る。
家に帰った後直ぐにお風呂に入り、ベットに潜る。
だけど眠れなかった。
今日は色んなことがあった、それなのに眠れない。
瞼を強く閉じ、無理にでも寝ようとするが、駄目だった。
それにすごく喉が渇く。
仕方ないのでキッチンに水を飲みに行くことにする。
コップに水を注ぎごくごくっと飲み干す。
水は喉仏を通り体内に入っていくのが伝わる。
水を飲み終え部屋に戻ろうとすると、"早く夢においで、待ってるから"...!!
(っ何だ今のは!確かにはっきりと声が聞こえた。)
僕は周りを見渡すも、当然誰かが居るわけもない。それじゃこの声は何だ!。すると突然、身体が動く。まるで誰かに、操られているかのように。目に見えない存在に操られ、恐怖心は増していく。操り人形の僕は、棚の前にやってきた。身体は何かを求めているかのように、引き出しを開けていく。僕の眼はただ操られていく身体を見ていることしかできない。
何かを探りながら、時間が立つと急に身体は、動くのをやめた。
(捜し物が見つかったのか?)
そんなことを思っていると。
手には瓶を持っていた。
...睡眠薬だった。
(何故睡眠薬を?何をしようとしているんだ)
"飲んでよ。じゃないと私に会えないよ"
また声が聴こえた。その声はどこかで、聞いたことのある声だった。
僕の身体はその声に反応するかのように、また動き出していた。
だがその動きは、睡眠薬を飲もうと、水を探しているようだった。
気づけば身体は睡眠薬を欲している。
それを満たすかのように、ゴクッと睡眠薬を飲む。
僕は傍観者のようにただじっと見ていることしかできなかった。
睡眠薬の効果は強力で一粒でも、数分立つと瞼は自然に落ちていき、僕は床に倒れていく。
眼を開くとそこはあの場所だった。
僕はまた昨日と同じように暗闇の道をただ真っ直ぐに進んでいく。
そして、同じように白い光に触れ壁一面、白の世界にやって来る。
(...いた!華だ。)
僕は急いで彼女のもとへ駆け寄る。
「また会えたね春斗。今日もなにか質問はあるの?」
と彼女は聞く。
僕は今日の睡眠薬について問いただす。
「あれは一体何だ!なぜ僕に睡眠薬を飲ませたんだ!」
彼女は、一瞬怯んだ顔をしたが直ぐに、
「何を言っているの?あれは春斗が、自分からしたんじゃない」
とあくまでしらをきるつもりらしい。
だがそんなことは通用しない。
「何を言っているんだ!あれは君が僕に仕向けたんだろう!」
僕は鬱憤を晴らすかのように彼女に怒りを向ける。
彼女は驚いた顔をしたかと思えば、顔を下に背ける。
その一瞬、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちたのを僕は見逃さなかった。
「な、泣いているのか?」
僕は焦った。まさか泣くとは思っていなかった。
「ごめん…。つい言い過ぎた。」
こっちが泣きたいぐらいなのに、僕は素直に謝る。
「私もごめんなさい。早く春斗に会いたかったから…。
だからついこんな手荒なことしちゃった。」
彼女は親に怒られた子供のような口調で謝る。
(そんなことをされたらこっちも強く言えないじゃないか。)
「私は、ただ春斗について、知りたいだけなの。だから教えてくれる?」
彼女は泣いて潤んでいる瞳を向けながら首を傾げる。
僕はその仕草に一瞬ドキッとした。
(惑わされてはいけない!ここは、しっかりしないと。)
だが、
「…そう春斗たちは三人で同じ時間を過ごしてきたんだね。」
僕はいつの間にか華に二人のことまで話していた。
(不思議だ華の瞳を見ると、口が勝手に動く。まるで催眠術をかけられているかのように)
「春斗の事たくさん知れてよかったわ。また、今度は違うお話も聞かせてもらえる?」
華は満足した笑顔で言う。
その姿に僕は頬が紅潮するのを感じる。
(何故だろう?華の笑顔を見ると胸が高鳴る。)
これは僕の本心なのか?
「もう少しだけ、もう少しだけ話せないかな?」
気づいたら僕は、こんなことを口走っている。
だけど、
「ごめんなさい、もう少しで朝日が昇ってしまうの。そしたら現実の春斗も起きてしまうわ。その前に私は消えないと…。」
華は、悲しそうな声で告げる。
所詮夢の中でしか会えないのだから当たり前だ。
「 そうか。無理を言ってごめ…」
言い終わる前に僕の瞼は暗闇に落ちていく。
「ごめんね春斗、もう少しだけ..を...んで..そしたら私は...」
彼女の声は、僕自身にはもう届かない。
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