第26話 救出
地下牢の一番奥、そこにシエルは囚われていた。四肢には鉄の枷、その枷からは鎖が伸びており、壁と繋がっている。
ぐったりと壁に背を預けて、項垂れているシエルに声を掛けた。
「シエルっ! 無事かっ!?」
「え、クライ……? クライっ! 生きてた……生きてたんだ……」
先ほど看守室から奪ってきた鍵で鉄格子の扉を開錠すると。シエルはジャラジャラと鎖を鳴らしながら走ってくる。
そんなシエルを俺は抱きしめた。三日ぶりだというのに、何だか懐かしい気持ちで胸が溢れそうになる。
「シエルっ!」
「良かったっ! 生きてたんだ! 生きてたんだねっ……!」
「すまないな、待たせてしまった」
「ううん、クライクライクライクライ! クライっ!」
こんな状態で生きているなど言うのも少々無理な話ではあるが、今はただシエルに会えたことを喜ぼう。おそらくこれが最後だろうから。
俺はシエルを身体から剥がすと、四肢に繋がれている枷を外していく。
シエルの肌に枷が食い込んでいた部分が赤く変色していた。そこを優しく揉んでやる。
「痛いか?」
「ううん、全然平気」
枷を見ると、罪人に対してよく使われる枷である事がわかる。罪人が暴れないように魔力を使えないようにする魔法の枷だ。コレであれば、いくらシエルが強いと言っても力ずくでどうにかなるようなものじゃない事がわかった。
「ねぇ……」
枷から解き放たれたシエルは再び俺の胸に抱き着いてくる。
俺は優しくシエルの頭を撫でてやる。
「なんだ?」
「ジニアは?」
どう返事をしようかと一瞬躊躇った。だが、ここで正直に話さないなんて事はしない。
シエルの目を見て本当の事を伝える。
「……喰った」
驚いたというよりは、落胆したというような表情をしているシエルは、少しの沈黙の後、
「……そっか」
シエルは一言だけの返事をした。
「……すまなかった」
「ううん、クライが生きていてくれたなら、それでいい」
シエルが俺を抱きしめる力が強くなった。彼女の両目からは大粒の涙が零れている。
俺は無言で頭を撫で続ける事しかできなかった。
数分後、シエルが落ち着いたところを見計らって、地下牢から出る事を促す。
俺とシエルは手を繋ぎ、先ほどまでウェインと戦っていた広場へと戻る。
こうして手を繋いで歩いていると、シエルが小さかった頃を思い出す。
あの時のシエルは寂しかったのか、ずっと俺にくっついていた。
(……もっと、一緒に手を繋いでいられれば良かったのにな)
残り時間の事を考えていると、いつの間にか先ほどまで居た広場へと戻ってきていた。
広場にいた衛兵達は全て屍へと成り果てている。
炎に関する魔法を使ったのか、焼け焦げた人間達から不快な臭いが漂ってくる。
「んっん~、お戻りになられたみたいですね」
「シエルを助ける事ができたのには感謝する。助かった」
驚いたような表情のアモン。
俺がお礼を言ったのがそこまでおかしいだろうか。
シエルを助けられたのはアモンのおかげと言っても過言ではない。俺一人では到底なしえなかった。
「これはこれは……目的を達成できたようで何よりです。私の目的ももう少し達成できそうですので」
「目的? ああ、魔王軍の侵攻はどうなっているんだ?」
「ええ、順調ですとも。勇者ウェインが死んだという情報を流した途端に、王国軍の動きにキレがなくなりましてねぇ。人間というのは本当に愚かだと思いませんか?」
「そうかも……しれないな……」
シエルを助ける事ができて本当に良かった。安心したからか、なんだか眠くなってきた。
今まで保っていた気力も体力も残りわずか。
シエルをここから脱出させるまで身体が動いてくれるといいのだが。
「おや? そろそろ時間切れのようですね」
「そうみたいだ。最後の願いを聞いてくれるか?」
「ねぇ、クライ。最後って――」
アモンはシエルの発言にかぶせるように、
「ええ、ええ、わかっていますとも。シエルさんを王国外に転移させろと言うのでしょう? 悪魔使いが荒いゴブリンですね、全く」
「すまんな」
「いえいえ、ご安心ください。その必要はありませんので――」
「――シエルっ!」
俺はシエルを、その場から突き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます