第7話 牧場の外で
シエルの言葉に嬉しくなって、彼女の頭を撫でようと思った矢先、
「ねぇ? 出口にゴブリンいっぱいいるよ? 知り合い?」
「いや、そんな奴はいなかった……感謝の為に俺達の事を待っていた……というわけじゃなさそうだな」
「なんか、殺気立ってない?」
「…………」
明確な殺気を感じるが、理由は不明だ。
感謝される覚えはあるが、恨まれる事などしていないはずなのだが。
建物の中から外に出ると、俺とシエルを囲むように、先ほど解放してやったゴブリン数人が待ち構えていた。
「何か用か?」
ゴブリン達がわかるように声を掛けると、その集団の中の一体のゴブリンが口を開いた。
「どうして、お前は人間と一緒にいるんだ?」
「お前らには関係がないだろう」
俺がシエルと一緒に居ようがこいつらには関係がない。
「はっ、我々ゴブリンが人間に助けられたとあっちゃあ、腹の虫がおさまらねぇよ。ましては、さっきまで、クソ人間どもに操られてたんだからよぉ」
「何が言いたい」
「それはな……こういう事だよぉ!」
ゴブリン達が一斉にシエルへと襲い掛かった。
超えてはいけないラインを優に超える行動に、俺の身体は勝手に動いていた。
「俺の大事な人に手を出すなぁっ! ――《装甲》」
鎧を纏い大剣で一閃。真っ二つになったゴブリンが数体出来上がる。
加減は出来ない、というかそもそもするつもりがない。全力で対処する。
気付くと、目の前には赤と緑と少しだけ黒の死体の山が積みあがっていた。
襲い掛かって来たゴブリンは誰も生き残っていない。
せっかく自由を手に入れたというのに、自ら棒に振るとはな。
「シエル、怪我はないか?」
「うん、クライが守ってくれたし。それに、この程度ならあたし一人でも余裕だよ」
冷静になって考えてみると、シエルの言う通りだった。
今まで捕らえられていて脱出したばかりのゴブリンに、俺達が負けるなんて事は考えられない。傷を付ける事すら不可能だろう。
「まあ、そうだな……」
少し頭に血が昇っていたようだ。
「良かったの? 殺しちゃって」
俺が今殺した同胞達の事を言っているのだろうが、
「問題はない」
「そっか。別にクライが嫌だったらあたしが殺っても良かったよ?」
「いや大丈夫だ。全く抵抗がないわけじゃないが、別にこれが初めてでもないしな」
魔族から難癖を付けられて襲われた事も一度や二度じゃない。
シエルと一緒に生きるとはそういう事なんだと理解している。
「でさ、さっきクライあたしの事で何か言ってなかった? ゴブリン語(?)だったけど」
「さっき? ああ、さっきは……いや、何でもない――《装甲解除》」
面と向かってそれを言うのは少し恥ずかしい。
シエルの視線に入らないように顔を逸らした。
「えー? そんなに照れるような事でも言ったの? 俺の女に何をするんだ! みたいな」
勘の鋭い奴だ。こういうのを人間達の間では乙女の勘なんて言ったりするんだったか。
「……いい、気にするな」
「んー、当たってると思うんだけどなー」
顎に人差し指を当てているシエル。
「その根拠は?」
「野生の勘ってヤツ、かな」
自分で言うのも何だが、本当に野性味溢れる感じに育ってしまったなと思った。
「……この話は終わりだ」
「クライがそう言うんだったら、まあいいけどね」
俺は取り敢えず話題を変える事にした。
「それにしても、人間ってのは減らないな……。俺達魔族は目に見えて減ってきているというのにな」
この十年間、可能な限り人間は殺してきたが、人間達が一向に減っているようには感じない。
ゴブリン達は減ってきているというのに、悲しい事だ。
二年前、人間達との争いの最前線にいた魔王軍が敗北した。それからは、人間側の魔族狩りは日に日に激化してきており、ゴブリン達含め魔族は減少の一途を辿っている。
「じゃあ、もっと大きな町を襲う?」
それにどれほどの意味があるのだろうか。
俺達のやっている事など焼け石に水で、実は意味のない殺戮を行っているだけなんじゃないかと不安になる。
それに、最近は俺達が襲撃するよりも、される方が多くなってきている。
今回のゴブリンの仲間達からの反撃は例外だが、俺の事を討伐に来る人間達は増えてきている。まあ、何年にも渡り村や街を潰してきたのだ。人間達の間で知れ渡っていてもおかしくはない。
さらには、ゴブリンであるにもかかわらず、全身を纏う白銀の鎧を装着している。
これで目立たない方がおかしいというものだ。
既に冒険者ギルドの中で指名手配されている可能性が高い。
「俺が死ぬまでに、本当にやれるのか……」
アモンと契約を交わした直後は、人間を滅ぼせると本気で思っていた。
だが、人間を滅ぼすという事は魔王軍をほぼたった一人で制圧した『勇者』をも殺すという事だ。人間を殺し続けていけば必ずぶつかる相手になるだろう。俺が殺されるのが早いのか、それとも寿命が尽きるのが早いのか。
「どうしたの? クライ?」
「いや、なんでもない」
今は未来の事なんてわからない。アモンのように未来を見る事ができないのだから当然だ。
全力で目の前の事に取り組む他にない。
そう頭では分かっているが、最近ではどうにも考え込んでしまう事が多くなっていた。
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