9 帰宅
私がカラオケから帰ると、ふうかは家に居なかった。
それもそうか。「外食に行く」とお父さんからメッセージが届いていたから家がもぬけの殻なのは何も不思議じゃない。
でも珍しいのは義姉のゆめも家から居なくなってる事だ。
ゆめは極力目立たないように心掛けて居るらしく、外出はあまり好まない。
なんと言ったって、ゆめは有名なインフルエンサーだからだ。
インスタというアプリで有名になったゆめは、今はモデルのお仕事をしており、学校ではゆめ知らない人がいないのはもちろん、検索をかけたらすぐに見つかる程だ。
机の上には義母の手作りサンドイッチが置いてる。
しかし、私はカラオケで小腹を満たしていたのであまりお腹が空いていなかったため、食べようか迷ったが、せっかく作ってくれたのだから食べようと、かかっていたラップを外しサンドイッチを手に取る。
いつも姉と妹のいるリビングが今はとても静かで、少し寂しい。
旅行に行ってから、姉とは顔を合わしていない。
そして、寂しさと同時に妹を祝わず友達と楽しんでいたという罪悪感も私を襲う。
1人のご飯はこんななのか。
時々1人で食事をすることはあるが、さっきまでしおんと遊んで楽しかったからか一段と虚しさを感じる。
能力のこともあって1人は嫌いじゃない。むしろ好きなのに、今の状況はとてもいやだ。
「早く帰ってこないかなあ」
自分が思わず発してしまった言葉がリビングに静かに響く。
時刻はちょうど21時を周った。
べつに帰ってくるのが遅い訳でもない。
ただただ、寂しさ、虚しさが襲う。
私は意味もなくサンドイッチを頬張る。
せめて口の中は寂しくないようにと。
ゆっくりと咀嚼して飲み込む。
味はとても美味しい。
これを誰かに共有したい。
それがまた1人という事実を知らしめる。
突然、鍵が開く音が鳴る。
帰ってきた車の音も聞こえない程私は追い込まれていたのかと思ったが、それ以上に帰ってきた事が嬉しかった。
私は自然に口角が上がる。
食べ終わったお皿を机の上に置きっぱなしで玄関に向かう。
「おかえ……り──」
そこに居たのは、目を真っ赤に腫らしたゆめ姉だった。
「ただいま。ゆい」
突然抱きつくゆめ姉に困惑しつつも私は抱き返す。
ゆめ姉の肩は少し小刻みに揺れていて、私の肩に熱い雫が落ちるのを感じる。
何があったのかとかは何も分からないが、私は何となく慰めようと、ゆめ姉の背中をトントンとしたり、さすったりした。
しばらくして、私の腕の中でゆめ姉が泣き止んだかと思うとゆめ姉はため息を吐き、私の服をつかみながら震えた声でボソッとつぶやいた。
「──つかれたよ」
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