第6話 妹の入学式の時 2
物音を出したらそれが爆発してしまうんじゃないか。
生唾をとむことすら許されそうもない静かな時間。
でもその中でも少し気持ちが昂っている私。義妹の入学式だからだ。
「新入生入場」
体育館のステージの両端に着いているスピーカーから発せられた音は体育館中に響く。
それからよくあるBGMとともに新入生が入場する。
私の通っている高校は偏差値が高い方である。だから故か、校則が緩い方で髪を染めることは許されているので、新入生でも髪を染めている人がちらちらいる。
しかし、その中でもとても明るい桃色の髪。
私の妹、ふうかだ!
少し微笑みながら歩くその姿はまさに百合の花。
私はおそらくシスコンなのだろう。
しかし、それを抜きにしてもふうかは新入生の中でも異彩を放っている。
そんな事を考えているうちに新入生は全員席に着いた。
新入生は280人で7クラス。
私は1組、姉は6組、妹は2組なので、三姉妹全員、体育祭などでは敵同士というわけか。
それから、新入生の名前が呼ばれていく。
同じ中学の後輩で知っているのがちらほら居たが、9割9分は知らない人だった。
ふうかが悪い人に誑かされなきゃいいけど。
そんなこんなで新入生の点呼がすみ、校長の長ったるい話、来賓紹介……etc
色々終わると新入生が退場していく。
退場は入場と違い、在校生が拍手して送り出す。
拍手のおかげで集会特有の緊張は解け、会場はざわざわする。
通り過ぎていく新入生を横目に私はふうかを探していた。
とは言うものの、ふうかは髪の毛のおかげで1秒足らずで見つけられた。
そして目が合う。
ふうかは別段驚いたような様子もなく、私にパチッ、とウインクをして視線を元に戻した。
かわいすぎるよ。
◇◇◇
「はあ」
私は机に項垂れる。
どこの教室、どんなメンツだとしても、教室というのは体育館よりは何倍も居心地がよく落ち着ける。
「お疲れ様〜。集会とか苦手だもんねゆい」
隣の天使・しおんが私の頭を撫でてるだと……
「う……そうだよぉ〜。しかも妹が入学してくるなんて、嬉しいし疲れちゃったよ」
私の言葉に天使が可愛く微笑む。
しおんとは無事同じクラスになったらしい。
しかも席も隣で、窓側から2列目の1番後ろが私で、窓側の1番後ろがしおん。
名前順だから、
「ゆいの妹ってピンクのボブの子でしょ?」
「そうだよ」
「めちゃめちゃ可愛いかったよね!? 1人だけ次元が違ったというか。さすがゆいの妹なだけある」
しおんは食いつくように話を続ける。
「三姉妹全員可愛いなんて反則ですよおゆいさん」
私は承認欲求満タンになりました。
「それをしおんさんが言いますか」
「ん? 私が?」
こいつ自分が可愛いという自覚がないのか。
そういうところも合わせてしおんは天使なんだが。
しかしまあ、みんなから愛されていたしおんがこれからは先輩と呼ばれると思うとなんか新鮮だなあと思う。
ふと、しおんが教室の窓を開けた。
少しぬるい教室に春の風が吹き抜ける。
その風はしおんの黒く綺麗な長髪を揺らし、窓の外に黄昏れる。
その姿は天使では無く、1人の儚い女の子のような、風が少し強く吹いたら飛んでしまいそうなただの幼い女の子のようだった。
「──私は別に可愛くないよ」
しおんは私に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう漏らした。
私は「どんな顔面でほざいてんだ」って言いたかったが、窓の外を眺めたままのしおんから一方的に伝えられているような感じがした。
「ゆいは私とずっと友達で居たいんだよね」
窓の外を眺めながらつぶやく。
目は合っていないものの私に向けてのものなのは分かる。
「うん」
──そうだよ。
──それがあのお願いとバランスの取れる私のお願い。
『──一生友達でいて欲しいな』
「そっか……じゃあ今日学校終わったら遊び行こー!」
プツッとさっきまでの緊張感が解けた様にしおんが天使の微笑みを顔に浮かべる。
今日は妹のお祝いもあるはずだ。
まあ夜までに帰ればいっか。
「行こっかー!」
そりゃ友達のお願いなら当然だろう。
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