第3話 妹の入学式の時 1
桜並木が春の訪れと新入生を歓迎する。
在校生の私は歓迎されていないわけだ。
私は自己肯定感を徐々に失っていく。
なんちゃって。
妹が同じ高校に入学することがとてもめちゃくちゃウルトラ嬉しい。
「おはよ!」
私の肩を後ろからとんとんとたたく。
それは私の友達、しおんだ。
しおんは私の小学校からの友達で、高校ではとてもモテている。
中学の時から確かに可愛いと思っていたが、全校生徒が少ないからもてているんだなとは思わなかったが、高校に入り男女問わずの人気っぷりから物凄い人と友達だったんだなと思った。
それに比べ私は平凡な顔面。
勉強が出来るわけでもないし運動もそこまで出来ない。
はは、なんかかんがえてるだけで悲しくなってくるからやめておこう。
「おはよ〜」
私が眠そうな挨拶を済ませると隣を歩き始めるしおん。
しおんは横目に私の顔をチラッと覗き、控えめに微笑んだ。
「新学期から眠そうだねえゆい」
「ホントだよっ。昨日はほんとに──」
私はそこまでいいかけ、やめた。
これは言っていいのか?
妹からのお願い、そして姉からのお願い。
それによって私は……
私は誰かに吐き出したいこの気持ちを飲み込み冗談を言った。
「学校で勉強できるのが楽しくて眠れなくてさー」
私の下手な冗談にしおんは口元を元に戻し、一瞬目線だけでそっぽを向くと、先程のように口元を微笑ませた。
「へぇ〜、じゃあ1年生の時みたいに授業中寝ないってことだ」
「ぐっ」
私のリアクションに満足したのか目元を細くし口角を高く上げ笑う。
私はこのしおんの顔が1番好きだ。
クシャッと笑う1歩手前の上品さと健気さのいいとこ取りをしたような天使のような笑顔。
「あ、そういえば」
私がしおんの顔に見とれていると、しおんは天使のような笑顔を元の天使のような顔に戻した。
「今日の朝はゆめ先輩と一緒じゃないんだ?」
何か探るような感じに私は嫌悪感を覚える。
私は探られるのは好きじゃない。
それは人に信頼されていないような、直接本題を聞いてくれればいいのにって思うから。
でも、探られてるんじゃないかって思うのはその内容に対して覚えがあるからなのも間違いない。
私は「うん」と何事もないように返すと、ゆいは「なんでー?」と嫌なところに1歩踏み込んできた。
だから、また下手な冗談を言う。
「喧嘩したからかな〜」
しおんはジトっと目を細め私の顔を覗き込んだと思うとすぐに元に戻り「へ〜ゆめ先輩が〜」と独り言のように呟いた。
「するする〜」
1度しかしたことないが。
「あの学校のマドンナもきょうだい喧嘩するんだね」
しおんは興味深そうに微笑む。
そう、私の姉、高校三年生のゆめは学校一のマドンナである。
しおんが天使であるならゆめは神。
だが、神には信者、宗教が必要。
だから、その欠点は──
といきなり私の背中に衝撃がっ。
「おはようゆいくん!」
きた……
嵐のように現れて去っていく女、うららだ。
うららはとても運動ができ男女問わずフレンドリーで人間ではないんじゃないかと思うほど活発的。
程よく焼けた健康的な肌はなんというか、とても美味しそう。他意はない。
「いたいですようららさん」
うららは「ははは」と笑い、次にしおんの方へとみやる。
「あ、しおんもおはよう!」
「お、おはようららちゃん」
しおんはうららのパワーに押されたのか声が1度詰まった。
私はしおんともうららとも仲がいいが、ここの2人が絡んでいるのはあまり見たことがない。
だから故、気まずそうなのが何だか新鮮でちょっと面白かった。
「じゃあ、あたしは先にいくね! 生徒会の仕事で早く集まらなくちゃいけないんだ。一緒に行きたかったけどまた今度!」
そう言い残し、うららは嵐のように走り去って行った。
「ほんとにうららちゃんって嵐みたいな人だよね」
「あはは、私も思った」
ほんとに思う。
でも嵐って、来て欲しい時に来ないし、来ないで欲しい時に来る理不尽なものだから、嵐っていうのは少し違うのかもしれない。
だからと言って良い例えは思いつかないけど。
「じゃあ今日も二人で行こっか!」
しおんはまた天使のような笑顔で私に笑いかける。
私としおんは他愛もない話をしながら川沿いの桜並木を歩き学校まで登校する。
ふと、ひらりと落ちてきた桜の花がしおんの頭の上に乗った。
私はたまに既視感を感じる。
私だけではないと思うが既視感というのは何故か色々わかんなくなる。
絶対行ったことない場所に行ったことがあるような感覚。
1年前のこの時期、私としおんは訳あって一緒に登校していない。
だからこの既視感はありえない。いや、俗世間ではこれを既視感と呼ぶのか。
なら、この私の既視感というのは、脳のバグか──または世界のバグか。
世界なんてスケールがデカすぎるような気がするが世界っていうのは自分を取り巻く環境の事だと私は思う。
なんかこんなんだと思想が強そうな感じがするが、私はこういうのを考えるのが昔から好きだった。
だから母は──
──いや違う。
私はたまに考える。
私がこんな変な能力みたいなのを持ってなかったら深く考えずに済んだのかって。
ひねくれてない、頭のおかしくない、自然に普通な女の子になれたのかって。
そんなの、そんな私に分かるわけないや。
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