第10話 豚の耳に念仏
それぞれが抱える日頃の鬱憤や疑問、悩み事などを愚痴を交えながら吐き出すと、それに対してそ率直な感想や自分なりのアドバイスを披露する。これがミーティングのミーティングたる
とりわけ彬が持ち込むこの手の相談に対して、僕と健は一緒になって処方箋を練る。しかしながらそれは私見に過ぎず、必ずしも根拠や理屈をともなったものではない。
ただそれは彬も承知のことらしく、ひとまずアドバイスに耳を傾けはするものの、かといってその通りに行動するとは限らない。いや、むしろアドバイスに従うことの方が稀かもしれない。
もう慣れっ子とはいえそれなりに相談に乗り、健と二人して無い知恵を絞って親身にアドバイスをしたにも関わらず「豚の耳に念仏」では、さすがに僕も焦ったくなるし力説したのが馬鹿らしくなり、脱力感に襲われることもしばしばである。
アメとムチの要領で、時にはおだてたり宥めたりしながら彼のモチベーションを高めていくべきなのかもしれない。しかし屁理屈をこねては何かと僕らのアドバイスをかわし行動に移さないことの言い訳ばかりを並べ立てる彬を目の前にすると、元来が短気な性格の僕は次第に頭に血が上り、ついムチを連打することになる。
「四十年生きてきて、
彬が言い訳を口にしようものなら、かように僕は遠慮なくずけずけと追い詰めるように物を言う。
とりわけ彬は学生時代に「政治フォーラム」なる雄弁会に参加していたこともあって、理屈をこねくりまわすことにかけては一日の長があり、それゆえ彼とまともに議論しようものなら到底手に負えない。
恋愛においては理屈よりも情緒こそ重要だと思うのだが、そこが彬には理解できないらしく、何かにつけては理屈を持ち出しては自身の正当性を主張するのだ。
そうなるとこちらとしても半ば力技でもって強引に説き伏せない限り議論を交わしたところで一向に話が噛み合わないまま並行線を辿るのである。
「じゃあ、まぁメールはしてみるけど・・・・・・ ただ週に2回は難しいかもよ?」
いつもの調子でもって辛うじて言いくるめはしたものの、尚も彬は渋い表情でそう口にする。
「長文だと見ただけでうんざりするから、できるだけ簡潔にね?あと『?』を多用すると彼女にプレッシャーを与えてしまうから、なるべく控えるように」
僕はそんな彬の抵抗を無視してメールをする際の注意点を、まるで子供を相手に噛んで含めるかのごとく念押しするのだった。
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