第11話 恋愛経験値
彬と出会ってかれこれ二十年余り、この間彼から彼女を紹介されたことはおろか彼女ができたという話すら僕の耳には入ってこなかった。
臆病に思えるほど慎重過ぎる性格や、他人から嫌われるのを極端に恐れ、常にいい人として認識されたいという願望、これら諸々が複雑に絡み合った結果、四十歳を過ぎて尚彼女すらできない現状を招いているのだろう。
とはいえこの年齢になると性格や価値観を変えることは容易ではなく、それは当の本人も十分理解しているのか、ことあるごとに、「それは分かってはいるんだけど・・・・・・」と吐露しつつ改善策については言葉を濁すのである。
当然ながら今更性格や価値観を変えることはほぼ不可能であり、唯一変わるとしたらトラウマになるほど衝撃的な出来事に遭遇した時くらいのものだろう。
とりわけ恋愛において必要となるスキルを得るには、実際に女性と交際するなどして場数を踏むことが最も効果的で手っ取り早い方法に思われる。その過程において経験するであろう女性とのあらゆる出来事が経験則となり、その蓄積こそが後々モノをいうはずである。逆にいえば経験が圧倒的に不足している場合は、それを補うべくあらゆる手段を講じる必要がある。
ただしアラフォーとなって尚経験が不足しているとなると補うこと自体が相当困難な作業となる。というのも年齢を重ねるにつれ、どうしても出会いの機会自体が少なくなってしまうからだ。
ちなみに彬の大好物である年若い女性にとってあえて四十男を選ぶとしたら、その理由は経済面以外に考えられない。逆にいえば経済的に著しく秀でている場合を除いて、彼女たちがあえて四十男を選ぶ理由は皆無である。
稀に都市伝説のごとく耳にする若い女性さえも魅了する中年男性が醸し出す独特の雰囲気や振る舞いとは、それなりに恋愛を経験してきた一部の者だけに与えられた能力であり、恋愛経験の足りない、かといって経済的に優れているでもないアラフォー男が年若い女性と巡り合い恋愛に発展するなどというのは宝くじに当たる以上に困難で、ほぼ絶望的といって差し支えないだろう。
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