第8話 出逢いと別離

 小関彬こぜきあきら肥留間健ひるまたけるとは大学に入学して間もない時期に、たまたま入った「法律学研究会」で出逢い、それ以来だからかれこれ20年を越える付き合いになる。


 健とは当初からウマが合い、下宿先のアパートが近かったこともあってとくに親しくしていた。

 一方で彬はというと研究会の一員という認識に過ぎず、彼も交えて皆で飲みに行ったり合宿に出かけることはあってもで遊びに出かけたことは4年間を通じて一度も無かった。

 決して険悪な仲ということはなかったのだが、当時の彬には人を寄せつけない壁のようなものを感じ、少なくとも僕や健にしてみたら意図的に一定の距離をおいているように思えたのだ。

 学年が上がるにつれ徐々に打ち解けてはいったものの、それでも憎まれ口はおろか軽口を叩く間柄になることは終ぞなかった。


 それが現在いまのようにミーティングを開くまでになったのは、10年ほど前に僕が東京から埼玉へ引っ越してきたことにはじまる。

 進学を機に上京して以来僕はずっと東京で暮らしていたのだが、当時勤務していた証券会社がリーマンショックのあおりを受けて経営危機に陥りリストラの憂き目に遭った。また時を同じくしてその頃同棲していた彼女の両親が離婚することになったのだ。


 「心配だから、独りになる母親の近くにいたい」

 そういう彼女の意向もあって、それならばということで心機一転彼女の実家からほど近い埼玉へと引っ越すことにしたのである。


 とりあえずツテで得た市役所の臨時職員の仕事をしながら、その後も彼女との同棲生活は続いた。

 それが東日本大震災から半年ほどが経ったある日、「少し距離を置きたい」との言葉を残し突如として彼女は実家へと去り、僕はたった独り取り残されることになった。


 最初のうちは、「しばらくしたら戻って来るだろう」との希望的観測をもっていたのだが1ヶ月、2ヶ月と経過しても一向にそんな気配がない現実に直面して、ようやく僕は自身の考えが甘かったことに気がついた。

 何度となく彼女と会う機会をつくっては今後についても話をしたのだが、その頃には既に彼女の心は僕から完全に離れてしまっていたのだろう。

 いつだったか話を終えて帰ろうとする彼女に手を伸ばすと、触れられまいと反射的に身をかわす姿を見て、もう元には戻れないことを遅まきながら悟らざるを得なかった。


 そんな経緯で彼女と別離わかれた僕は週末ともなると健、彬と頻繁に顔を合わせるようになり、こと現在いまに至っては彬とのミーティングが毎週末のルーティンとなっているのである。

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