第2話 ミーティング
土曜日の午後、コーヒーとタバコを手にいつものカフェで他愛もない会話に興じるのが僕と彬のルーティンであり、僕らはこれを「ミーティング」と称していた。
ただしカフェといってもどこの街にもある喫茶チェーンに過ぎず、肝心のコーヒーはというとお世辞にも美味しいとは言い難い。なにせ1杯で十分、2杯も飲んだら胸焼けを起こしそうな代物なのだ。
にも関わらず毎週のように足を運んでいるのは、各テーブルごとにゆったりとした空間がとられ他の客はもちろん店員の視線を気にすることなく長居できるからである。
このミーティングが週末の恒例となってから
宇都宮から片道2時間かけて来るのが億劫というのもあるだろうが、いちばんの理由は他にある。
宇都宮へ引越してからというもの健は、「人脈を広げるため」という口実のもと頻繁に夜の街へと出かけるようになったのだ。そうなると自然土曜日ともなれば夜な夜な飲み屋へ足を運ぶこととなり、今やそれが彼のルーティンとなっているのである。
それはそうと四十男が二人テーブルを挟んで向かい合い、延々とお喋りに興じる姿は
とりわけ彬は100キロを優に超える体格の持ち主で、二重アゴを湛えた顔には丸っこい鼻と厚ぼったい唇が張り付いている。髪の毛は年相応とはいえ額にM字を描いて徐々に後退している。ただし健に至ってはスキンヘッドさながらに見事なまでに禿げあがっている始末である。
無論僕にしても他人の容姿をとやかく言えるような立場にはなく、常に眠たげな一重瞼とエラの張った見た目はお世辞にも人様に自慢できるようなものではない。
「それで、結局のところおまえはどうしたいの?」
正面に座る彬をまっすぐに見据えると、僕はあらためて
「とりあえずは、お近づきになりたい?」
ことのほか間の抜けた返答に僕は気勢を削がれた気分になり、「知らんがな」と胸の内で毒づいた。
とはいえひとまず話を前に進める必要がある。そこはぐっと我慢して話を続けることにした。
「それで、メールの返事はあった?」
「うん、いちよう・・・・・・」
「その日のうちに?何て?」
「たしか翌日くらいだったかな?『付き合ってる人はいないし、好きな人もいません』だって」
それを聞くにつけ、たとえ社交辞令にせよあんな不躾なメールによくもまぁ返事をくれたものだと感心すると同時にわざわざ返事をせざるを得なかった彼女のことを気の毒にすら思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます