第2話 ミーティング

 土曜日の午後、コーヒーとタバコを手にいつものカフェで他愛もない会話に興じるのが僕と彬のルーティンであり、僕らはこれを「ミーティング」と称していた。

 ただしカフェといってもどこの街にもある喫茶チェーンに過ぎず、肝心のコーヒーはというとお世辞にも美味しいとは言い難い。なにせ1杯で十分、2杯も飲んだら胸焼けを起こしそうな代物なのだ。

 にも関わらず毎週のように足を運んでいるのは、各テーブルごとにゆったりとした空間がとられ他の客はもちろん店員の視線を気にすることなく長居できるからである。


 このミーティングが週末の恒例となってからはや5年もの歳月が経つ。当初はもうひとり肥留間健ひるまたけるも参加していたのだが、3年ほど前に埼玉の上尾から宇都宮へ転居して以来滅多に顔を見せることがなくなった。

 宇都宮から片道2時間かけて来るのが億劫というのもあるだろうが、いちばんの理由は他にある。

 宇都宮へ引越してからというもの健は、「人脈を広げるため」という口実のもと頻繁に夜の街へと出かけるようになったのだ。そうなると自然土曜日ともなれば夜な夜な飲み屋へ足を運ぶこととなり、今やそれが彼のルーティンとなっているのである。


 それはそうと四十男が二人テーブルを挟んで向かい合い、延々とお喋りに興じる姿ははたから見たら奇異に映るかもしれない。

 とりわけ彬は100キロを優に超える体格の持ち主で、二重アゴを湛えた顔には丸っこい鼻と厚ぼったい唇が張り付いている。髪の毛は年相応とはいえ額にM字を描いて徐々に後退している。ただし健に至ってはスキンヘッドさながらに見事なまでに禿げあがっている始末である。

 無論僕にしても他人の容姿をとやかく言えるような立場にはなく、常に眠たげな一重瞼とエラの張った見た目はお世辞にも人様に自慢できるようなものではない。


 「それで、結局のところおまえはどうしたいの?」

 正面に座る彬をまっすぐに見据えると、僕はあらためて取調しらべでもするかのような鋭い口調で尋ねた。


 「とりあえずは、お近づきになりたい?」

 ことのほか間の抜けた返答に僕は気勢を削がれた気分になり、「知らんがな」と胸の内で毒づいた。


 とはいえひとまず話を前に進める必要がある。そこはぐっと我慢して話を続けることにした。


 「それで、メールの返事はあった?」


 「うん、いちよう・・・・・・」


 「その日のうちに?何て?」

 

 「たしか翌日くらいだったかな?『付き合ってる人はいないし、好きな人もいません』だって」


 それを聞くにつけ、たとえ社交辞令にせよあんな不躾なメールによくもまぁ返事をくれたものだと感心すると同時にわざわざ返事をせざるを得なかった彼女のことを気の毒にすら思った。

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