負けライオンの雄叫び〜モテないアラフォー男子の恋愛奮闘記〜
椎名マサヲ
第1話 自然の摂理
自然界において例えばライオンがそうであるように、メスを巡る戦いに勝利したオスは複数のメスをつき従えてハーレムを形成することができる。一方で戦いに敗れたオスは敗残者として流浪の旅の果てに、いつしか孤独のうちに死に至るのだ。
この弱肉強食の自然の摂理は人間界においても同様であり強いオス、こと人間界では経済力をはじめ容姿やコミュニケーション能力に長けたオスが往々にしてメスを巡る戦いに勝利し、一人もしくは複数の上等なメスを手に入れる。
かたや戦いに敗れあぶれてしまったオスは、ライオンと同じく敗残者となって孤独に追いやられた挙句、流浪の果てにやがて寂しく死に至ることになる。
芸能人の不倫が世間を賑わせ一般人であってもバツ1はおろかバツ2、バツ3と何度も結婚と離婚を繰り返すオスが存在する一方で、一度の結婚はおろか恋人すらいないままに、ただ年齢だけを重ねるあぶれライオンのごとき者たちが存在するのもまた事実である。
本作はメスを巡る戦いに敗れ続けたオスが崖っぷちに立たされながら尚も一人のメスと結ばれるため必死にもがいている、そんな悪戦苦闘する様子をその生態に迫りながら描いた物語である。
―いま付き合ってる人とか、好きな人とかっていますか?―
本人にいわせると、「渾身のLINE」だったらしく不敵な笑みを浮かべると、おもむろにタバコに火をつけ満足げに煙を吐き出した。しかしそんな自信に満ちた表情とは裏腹に、その口元はだらしなく締まりがない。
怖いもの見たさの気分も手伝って、僕は彬から強引にスマホを取り上げると恐る恐る画面に視線を落とした。するとそこには確かに冒頭のメッセージが映し出されていた。
いざ目の当たりにしてみて、あらためて初対面の女性に送るにはあまりにも唐突で、卑屈な感じさえ漂わせている代物のように思えた。と同時に僕は呆然とし、大袈裟ではなく脳の奥が痺れて気が遠くなるような感覚に襲われた。ふと我に返ると、今度は彬に対する怒りがふつふつと湧き上がってきたのである。
「よりによって、またおまえの悪い癖が出たな?一体どういうつもりで・・・・・・ ついにおまえ気が狂ったか?」
僕はいつにも増して辛辣な口調で詰め寄ると、これみよがしにひとつ大きなため息を吐いてみせる。
「狂ったか?」は言い過ぎにしても幸運にもせっかく女性と連絡先を交換できたにも関わらず、よりによって初メールがこれでは自らチャンスを潰しているようなものである。
「いや、違うんだって!折角の機会だからここは攻めなきゃと思って!やっぱり爪跡くらいは残したいじゃん?」
「爪跡もなにも、いきなりこんなメールを送って、『引かれるかも?』とか考えない訳?『付き合ってる人は?』のくだりは百歩譲って良いとしても、『好きな人はいますか?』っておまえに関係ないし、いきなり失礼じゃない?こういうことは何度かメールを交わした後に流れで聞くことだろ?そんな順序もすっ飛ばした挙句こんなメールを送って、もうこれは完全に警戒されたな?」
矢継ぎ早にまくし立てる僕に対して、「それはまぁ、そうかもしれないけど・・・・・・」
彬はそう答えるのが精一杯だったようで、バツが悪そうに口ごもった。
その様子からして、とくに算段があった訳ではなく単に勢いにまかせて送ってしまった。そう僕は確信したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます