あなたへ

「では、私たちが生きていると公表すればいいじゃないか。そうすれば、殺害の罪は発生しない」


 平然とした顔で言うルドルフ様に、僕は言う。


「しかしそれでは、奴が何をしてくるか分かりません。逆恨みされ、暗殺、もしくは…」

「構うものか。どうせ私は刑務所に入ることになるのだから」


 主人は、平然とした顔で、さも当然かのように言いきった。


「……それは、つまり、伯爵夫人の件の罰を受けるということで御座いますか」


 僕の問いに、ルドルフ様は「無論だ」と答える。


「私は夫人を攫った罪を裁かれに行く。お前は勝手にどこかへ逃亡すれば済む。それで全て解決することだろう」

「伯爵は訴訟を起こさないというのに、自ら罪を告白して、それで死刑にでも判決を下されたらどうするのですか…!」

「構わない」


 そう言った顔は、覚悟に満ちていた。自らの罪を背負う覚悟。それが露わになっていたのである。


「あの人は死んでしまった。…その罪を、私自身が背負わなくてどうする。私が初めて本気で恋をした相手なのに」


 僕は、ルドルフ様に何も言うことができなかった。そこに、悲しいさだめと僕の罪が、ありありと見せつけられたのである。



 あれから数十日が経過し、僕たちは生きていると、公表された。それと同時にルドルフ様は罪を告白し、その罪の裁判を受けることとなった。


 サヘラベートは何か言っていたそうだが、その言葉に大きな影響力はなかった。他人に罪を押し付けているため、あまり大っぴらに今回の事件について語ることができなかったのであろう。


 伯爵夫人誘拐の裁判の結果は、ルドルフ様の当時の精神的な状況と、伯父様の尽力のおかげで、どうにか死刑は免れることになった。


 刑期は八年と、長くなってしまったが、ルドルフ様は、その刑を真っすぐに受け止めていたようである。


 主人は目を覚まされた。そのことだけでも、僕にとっては十分喜ばしいことであった。


 僕の体の傷も、治りが早く、もう充分に歩ける程度にはなった。

「若者の体は丈夫でいいな」なんて、伯父様は茶化すように言っていたけれど。


 しかし、ある日に一報が入った。


「裁判所の情報のミスで、フランツブルグの冤罪がまだ晴れていなかったらしい。今日死刑が執行されるそうだ」


 一瞬時が止まったかのように思えた。


「どうやらメイドの方が罪をすべて被ったそうだ。執事の方はすでに釈放されたらしいが…急ぎ、連絡をする」


 そう言って、伯父様は焦って裁判所に向かわれた。


 僕はいてもたってもいられなくなり、すぐに馬を出して、罪人が運ばれてくるであろう道を、くまなく探しまわった。




 そして、見つけたのだった。


 罪人が載せられる馬車から、君が降りてくるのを。


 僕は歓喜に打ち震えた。そしてすぐに、こう言った。


「間に合ってよかった!」



 君が振り返るまで、あと少し。




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モナムール かえさん小説堂 @kaesan-kamosirenai

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