冤罪
その後、ルドルフ様と僕が再開を果たしたのは、数時間後のことだ。
ルドルフ様は扉を開けるや否や、僕が横になっているベッドに駆け寄った。
「ラムール! 無事か!」
久しぶりに見るルドルフ様の顔色は以前よりも明るくなり、あの気が触れていたときとは見違えるほどになっていた。
「ルドルフ様…はい、私は無事で御座います」
「はあ……心配をかけさせるな、この馬鹿者! 私がどれだけの思いをしたと思っている!」
「申し訳ございません」
口で言っていることは乱暴であったが、声色からは明るい雰囲気が感じられた。
僕はそのときにはじめて安堵した。どうやらルドルフ様は本当に無事だったらしい。
僕が笑顔を見せると、ルドルフ様の隣に座っていた伯父様が、おもむろに咳ばらいをした。
「感動の再開のところ、すまないのだがね」
バリトン調の声が厳しくなる。
「君たちの今後の話だが。君たちは名目上、死んだことになっている。そうとも言わなければ、あの甥は逆恨みをして、再び君たちを狙いに来るだろうからね。だが死んだことになった以上、フランツブルグが貴族として扱われることは、もうない」
坦々と語られる自分たちの現状に、ルドルフ様は真っすぐに聞き入っておられた。
「そんなことは構わない。もともと地位なんぞには興味がなかったからな」
「そうか。…で、もう一つ。伯爵家のことについてだが、夫人が亡くなったらしい。森の狼にやられたようだな」
その言葉に、ルドルフ様の表情が厳しくなる。
「伯爵殿は我関せずといった態度だったから、訴訟も起こらず、秘密裏に処分されるだろう。問題は…」
伯父様は言いづらそうに少し黙ってから、厳かに話した。
「君たちを殺害した罪についてだ」
よく分からないだろうが、と前置きをして、伯父様は続ける。
「フランツブルグは殺された。本来ならば、私の甥が殺害したことになるから、その罪は甥が受けるべきだ。しかし、あの馬鹿は、裁判所に手を回して、フランツブルグ殺害の罪を、他の人物に擦り付けたようなんだ。要するに、冤罪が発生している」
奴の気味の悪い顔が脳裏をよぎる。
「…なるほど。その冤罪というのは、誰に?」
「ああ、確か、…マシェリーというメイドと、エンメルトという執事だったはずだが」
「マシェリーとエンメルトが!」
僕は思わず大声を上げた。ずっと彼女がどうなったのか分からなかったけれど、まさかエンメルトまでも同じような目にあっているとは想定していなかった。
伯父様が僕の方に目を向ける。
「おや、知人かね」
「……僕の恋人と友人です」
「そうか…。それは何としても、冤罪を晴らさねばなるまいな」
難しそうな表情をする伯父様に、僕は言った。
「貴方様のお力で、なんとかすることができませんでしょうか?」
しかし、伯父様は首を振る。
「私は生まれつき体が弱くてね。そのせいで本家から分家に渡されたから、本家の血筋である甥よりも、権力はさほど持っていない」
「そうなのですか…」
彼女はようやくあの伯爵家から逃れることができたというのに。その後の人生で、誰か新しい良い人を見つけて、そのまま僕のことを忘れてくれればと思っていたのに。
エンメルトだってそうだ。彼には家族がいる。先に逃亡した奥さんと子供を追って行く手筈になっていたはずなのに。
また僕のせいか。そんなことを思っていると、不意にルドルフ様が口を開いた。
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