罪と罰

「その後、私は檻の中で、フランツブルグ様が亡くなったこと、サヘラベート様が刺されたこと、そしてラムール様が亡くなった事を知らされました。」


 そう話す彼女は、声色から疲れをのぞかせていた。


 私は牧師として、たくさんの罪の告白を聞いてきたが、彼女の話を聞く限り、彼女に懺悔すべき罪はないように思える。


 本来、懺悔をしている時に、牧師は口を挟まない。しかし私は、どうしても彼女が気がかりになって、こう問うた。


「貴方は懺悔と言いますが、話をお聞きる限り、貴方はなんの罪も犯していないではありませんか。それに最初、貴方は彼を殺したと言いましたが、実際、貴方は誰一人として殺めてはいないではありませんか」


 私のしわがれた声に、彼女は、静かな声で返した。


「そうかもしれません。しかし、牧師様。世間一般では、私は犯罪者と呼ばれるのです」


 彼女はその扱いに対して、諦めているような様子だった。


「と、言いますと」

「あの事件の後、誰がフランツブルグ様を殺したのかという話になりました。すると、サヘラベート様が、こうおっしゃられたのです。貴様らが罪を被れ、と」


「それでは、罪を擦り付けられたということではありませんか」

「ええ、そういうことになりますね。けれど、私はもういいのです。私は全ての罪を背負って、死んでしまったほうが、いっそのこと、良いのです」


「貴方は、お一人で罪を被って死ぬおつもりですか」


 私は彼女が哀れに思えて仕方がなかった。何か一つでも救いがあればよいのだが。


 しかし、彼女は本当に諦めてしまっているようだった。


「はい、牧師様。もう彼はいません。こんな世界でみじめに生きていくなら、彼のいる向こうの世界に行ってしまった方が、良いではありませんか」


 その意志を、覚悟と呼ぶにはずいぶんと幼すぎる。


 私は、彼女のような者を今まで見てこなかったわけではない。しかし、私は彼女のような者を見るたびに、この世界の真理を疑いたくなるのだ。


 長く神に仕えてきた私だが、こういう時に限っては、自分のことが、神のことが、よくわからなくなる。


 そんなことを思って黙っていると、馬車に乗り込んでいた警吏が二人ほど、降りてきた。


「牧師サンよ、終わったかい」

「俺たちだって暇じゃねえんだ。この女を早く処刑場に送らねえと、おっかねえ上司から怒られちまうんでな」


 急かす警吏を横目に、私は彼女に言った。


「貴方の言いたいことは、すべて話し終えることが出来ましたか」

「はい、牧師様。ご清聴、感謝いたします」

「貴方の罪は、きっと神に届いているでしょう」

「そうだといいですね」


 彼女の言葉には、もはや何の感情も残ってはいなかった。

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