囚われの身

 彼女にはその光景が頭に焼き付いてしまった。


 そこから先は、あまり記憶がハッキリしていない。


 なにか叫んだような気もするし、何もできなかったような気もする。


 ただ、その瞬間が、どんなに時間が経っても忘れられず、ハッキリと残ってしまっていた。


 彼女がようやく正気に戻った時には、両手首に手枷がはめられていた。



 あの後、エンメルトが呆然とするマシェリーの腕を取って、引きずるように走った。


 息が上がるのも忘れて、ただ何も考えずに走ったようだ。一本の道が、かなり長く感じられた。


 森を抜けると、そこには多くの兵士と馬車が置かれており、二人は何の弁明もする余地もなく、鉄格子のはまった馬車のなかに放り込まれた。


 その兵士たちは、サヘラベート家に従属しているものらしい。狼たちの猛攻を受けて、攻めあぐねた者たちのようだ。


「私たちは屋敷から逃げてきただけだ! 何故このような仕打ちを受けなければならない!」


「サヘラベート様が戻られていない。それに、森の奥深くで伯爵夫人様が亡くなられていたそうだ。誰が犯人なのかもわからない」


「犯人だと? 狼に決まっているだろう、そんなもの!」


 エンメルトがそう訴えるも、兵士たちはまるで機械のように機敏に動くだけで、彼の話を聞こうともしない。エンメルトの隣で呆然としている彼女は、魂が抜けてしまったかのように座り込んでいた。


 その様子を見、彼も共に黙り込んだ。


 今はただ、神に祈ることしかできることはない。


 結局、その日は流星のように時間が流れるばかりだった。

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