木々の影から

「さあ、あとは道なりに真っすぐ進むだけです。行きましょう。お嬢さん、そこの剣を取っていただけますか」

「これが必要なのですか…?」


 エンメルトが指し示すのは、彼女の足元に立てかけてあった剣である。彼女は恐る恐る、重たい剣を持ちあげた。


「いくら安全と言われてきた隠し通路といえど、近年になって数が増えてきたからか、狼がこの通路にも現れ始めたようでしてね。あちこちに武器があるのも、そのせいなのですよ」


 彼女が剣を手渡すと、エンメルトはすぐにその刀身をあらわにし、森の小道を駆けて行った。


 彼女も後に続く。



 隠し通路は、屋敷の周りを円形に回る形になっており、その通路を進んでいくうちに、木々の隙間から、ちらちらと庭の景色が垣間見えるのだった。


「…これは酷い……」


 エンメルトがつぶやく。


 彼女もつられて、木々の隙間から見え隠れする光景を見てしまった。殺伐とした雰囲気が、彼女のところにまで届きそうになっている。


 サヘラベートとフランツブルグの決闘。二人とも剣を持って対峙していた。その間に割って入るように、ラムールがナイフを片手に持って、何かを訴えている。


 いつ、誰が負傷するのか。なにが起きてもおかしくないような状況だった。


 刃が踊る。白い身を翻しながら舞う姿は、一種の芸術のようにも感じさせるが、そのなかには、命を削る殺意が渦巻いていた。


 そこに、彼はいる。


 彼女はどんな気持ちで見ればいいのか、分からなかった。せめて、誰も命を落とすことがないようにと、心の中で神の名を呼び続けた。

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