後悔
男は、エンメルトと名乗った。
ラムールの古くからの友人で、共にフランツブルグに仕えていたそうだ。
マシェリーは、道すがら、エンメルトから事の顛末を聞いた。
主人は、小さいころから、人の愛情を受けないで育ってきた。
自分の両親がした行いによってあらぬ噂が立ち、領地内の人間はおろか、召使いたちにまで避けられ、疎まれ、けなされ、拒絶されてきたのである。
それゆえに、成人したころには、そのトラウマから、極端に人を遠ざけていたのだった。
ラムールは、そんな主人を変えたいと、常々言っていた。
彼の父親は、主人を拒絶していた一人であり、彼自身にも、主人に近づかないようにきつく教えていたのである。
彼の父というのは、規律を重んじ、血統を何よりも大切にするような生真面目な人物だった。
その性格故に、自らの主人である先代には大きな忠誠を誓っていたのに、下人の女と婚約を結んでから、手のひらを反すように態度を激変させたそうだ。
その下人の血が入った子、ルドルフ・フランツブルグに関しては特に嫌っていたようで、ルドルフに仕えることになっていたラムールには、主人に近づくことがないよう厳しく教えていたらしい。
ラムールの父は、ルドルフが屋敷を移築するのと同じ時期に、自ら退職して出て行ったきり消息が不明である。
しかし、その父親の存在は、ラムールにとっては今もなお、生生しく残る傷跡の原因として、深く刻み込まれていた。
「たった七歳の差なんだ、ルドルフ様と僕は。あの時、僕に勇気があれば。噂や父上にひるまない強さがあれば。ルドルフ様は、あんなに心を病まなかったはずなのに。僕は父上が怖かった。だから屈してしまった。最低だ、僕は…」
そんなことを、エンメルトに話していたそうだ。
だから、主人を変えるために、ラムールは力を尽くしていた。色々な手段を使って、誰かとつながるきっかけづくりをしていた。
その結果が、あの舞踏会だった。
少しの危険を冒して手を回し、フランツブルグに招待状が届くように図ったのだ。
あの舞踏会の日。主人は初めて、恋というものを知った。
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