案内人
目の前に灰色の景色が広がる。
調度品も装飾品も何もない、最低限の者しか置かれていないような、ただ広いだけの死んだような景色であった。
彼女は仕方なく、ラムールの言ったとおりに、真っすぐに進んでいくことにした。
埃の匂いがして、本当に人が住んでいるとは思えないほどの、生気を失った暗い道を歩く。恐ろしいほどに静かで、人の気配も感じない。むしろ人ではない何かが現れそうで、内心びくびくとしながら、一歩一歩に多大な勇気を使っていたのである。
すると突然、目の前に炎の光が揺らめいたと共に、人の輪郭が描かれた。
恐る恐る見ると、その輪郭の主は、ラムールよりも少しだけ背の低い男らしい。生真面目そうに茶髪をそろえてあり、顎に薄く髭をたたえている。
その男がマシェリーに気が付くと、
「そこにいるのはどなたです」
と、テノール調の声で彼女に声をかけた。
あの人がラムールの言っていた、仲間、なのだろうか。
マシェリーは不安に駆られながらも、懸命に口を開いた。
「あ、あの、ラムール様に言われてここに来たのですが」
男はその名を聞くと、怪訝そうに言った。
「ラムールに? まさか…。失礼ですがお嬢さん、お名前をお伺いしても?」
「はい…。マシェリーと申します」
すると男は、やれやれといった様子でため息をつき、ランプの灯を強めた。
「あいつ、また無茶を……。しかも、自分の恋人を巻き込んで…」
「あの、彼は悪くないのです…。私が、」
「いや、あれはもともとそういう奴でしてね。大切なものが多すぎるがゆえに、いつも無茶をするんですよ」
男は苦笑して、マシェリーに向き合う。
「事態はある程度は把握していますが…お嬢さんがいらっしゃるとは思いませんでしたな。奴はなんと?」
「ええと、隠し通路まで案内してもらえ、と…」
男は納得したように頷いた。
「分かりました。お嬢さん、私についてきてください」
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