嘘か誠か

 そこから先は、二人による激戦となった。刃を向けて斬り合い、ところどころで金属が触れあい、火花が散る。


 ラムールはその光景を見て絶句した。しかし、すぐに正気を取り戻して、マシェリ―を縛っている縄を解き、そして早く逃げるように言う。


「早くここから離れてくれ。このままでは、いつ君が傷ついてしまうのか分からない」

「あ、貴方は…」

「僕は大丈夫さ! 君が逃げ切るまでの時間は稼いでみせるよ」


 ラムールはいつもの笑顔を向けた。


 服の袖から、赤黒く染みた包帯が覗く。


「本当に…? 貴方も逃げた方がいいわ。このままじゃ、貴方も死んでしまうかもしれない!」

「いいんだよ。…言っただろう? 僕はもう後悔したくないんだ。ほら、こっちに来て」


 彼女はまだ何か言いたげだったが、ラムールはマシェリーの手を取って、屋敷の扉の前まで導いた。


「いいかい。屋敷のなかに入って真っすぐ歩いていけば、僕の仲間がいるはずだから。その人に事情を話して、隠し通路に案内してもらうんだ。そうすれば、狼にも出くわさずに逃げられるはずだからね」


 そう言い聞かせ、まだ不安そうな表情でいる彼女の頭を撫でる。


「僕は大丈夫。ほら、行って。きっとすぐに僕も追いつくから」


 扉を開けて、進むように促す。彼女は躊躇いながらも、その一歩を屋敷の中に踏み入れた。


 しかし、一瞬、ゾワリという感覚が、彼女の胸をつかえさせる。


 かすかな違和感とでも言おうか、嫌な予感とでも言おうか。だがそれは、何故かとても気になって仕方がなく、彼女は振り返らずにはいられなかった。


 しかし。


「ラムール! その女をどうするつもりだ!」


 その怒鳴り声が聞こえた途端に、バタン、と勢いよく扉が閉まった。

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