第114話 人間を越えた存在

(こいつ、やっぱり強い……だけど!!)



倒れそうになりながらもコウは目を見開き、下半身に力を込めて体勢を立て直すとオウガに目掛けて蹴りを放つ。



「おらぁっ!!」

「ぐはっ!?」



コウの回し蹴りを脇腹に受けたオウガは悲鳴を上げ、人間が繰り出したとは思えない程の強烈な衝撃が襲い掛かる。予想外の反撃にオウガは慌てて後退り、蹴りつけられた脇腹を抑えた。



(何なんだこいつは……本当に人間なのか!?)



本来であれば獣人族と人間の間には大きな身体能力の差が存在し、いくら人間が身体を鍛えた所で普通ならば獣人族には及ばない。しかし、オウガが相手にしているのはただの人間ではない。


凡人の身でありながらコウは毎日のように身体を鍛え上げ、普通の人間ならば身体が耐え切れない程の猛特訓を続けてきた。星水の効果を利用して彼は身体が壊れる寸前に超回復を行い、それを繰り返す事に何時の間にか彼の肉体は「超人」と言っても良いほどに鍛え上げられる。


コウの長所は腕力ではなく、彼の筋力その物が人間の領域を越えていた。それはコウが目指す「勇者ルナ」と同じ肉体に近付きつつあることを意味しており、彼は確実に強くなっていた。



「うおおおおっ!!」

「ぐはぁっ!?」



オウガに目掛けてコウは突っ込むと、そのまま彼の身体に抱きついて壁際まで押し込む。強烈な勢いで壁に叩きつけられたオウガは白目を剥き、衝突の際に壁に亀裂が走る。この時にコウは右拳を振りかざし、全力の一撃を叩き込む。



「おらぁっ!!」

「がはぁあああっ!?」



オウガの腹部にコウの拳が叩き込まれると壁の亀裂が一気に広がり、遂には壁が耐え切れずに崩壊してしまう。オウガは反対側の部屋まで吹き飛び、それを見たコウは息を荒げながら汗を流す。



(流石に剛力を使いすぎたか……)



戦闘の際中にコウは剛力を使用し、全身の力を限界まで引き出して戦っていた。だが、その影響で一気に身体に疲労が襲い掛かり、筋肉痛を引き起こす。



(休んでいる暇はないのに……)



剛力の影響でコウは立つ事もままならずに膝をついてしまう。流石に体力の限界を迎え、少しでも回復する必要があった。



(スラミンを呼んで回復を……何だ!?)



教会内に隠れているはずのスラミンを呼び寄せて回復させてもらおうとした時、崩壊した壁の反対側から物音が聞こえた。先の攻撃でオウガは確実に倒したと思ったが、崩壊した壁の隙間を確認すると瓦礫を払いのけて立ち上がろうとするオウガの姿があった。


先ほどの攻撃で相当な深手を負った事は間違いなく、オウガの義足ではない方の足は折れており、左腕の方も異様な形に折れ曲がっていた。それでもオウガは頭から血を流しながらも残された右腕で壁に手を伸ばして立ち上がる。



「ぐぅうっ……」

「くそっ……まだ戦えるのか」



獣人族は人間以上の生命力を誇り、普通の人間ならば気絶する様な怪我でも立ち上がる。しかし、既にオウガは半分程意識が飛んでいる様子であり、あと一撃でも食らわせれば確実に倒せる。


コウも体力の限界だったが泣き言は言えず、彼は瓦礫を拾い上げてオウガに視線を向けた。頭にでも瓦礫の破片を当てれば今度こそオウガの意識は断たれる事は間違いなく、コウは瓦礫をオウガに目掛けて放つ。



「終わりだ!!」

「っ……!?」



投石の技術を生かしてコウは瓦礫をオウガへと放つと、オウガはコウの声に反応して振り返り、迫りくる瓦礫を見て咄嗟に背中を向ける。



「ああっ!!」

「なっ!?」



オウガは背中に円盤型の盾を隠していたらしく、盾に衝突した瞬間に瓦礫が反対方向に吹き飛ぶ。こちらの盾は昼間にコウがオウガと戦った時も使用しており、こちらの盾は衝撃を跳ね返す力を持っていた。



(こいつ、まさかこの盾を隠していたのか!?)



最初からオウガは盾を隠し持っていたわけではなく、偶然にもコウが破壊した壁の反対側の部屋に盾が置いてあった。それをオウガは拾い上げて背中に隠し持ち、コウが放った瓦礫を逆に弾き返す。


咄嗟にコウは弾かれた瓦礫に対して頭を守るために両腕で庇うが、闘拳を装着している方の腕に瓦礫が衝突して砕け散る。この時に瓦礫の破片が顔面に浴びてしまい、コウは一時的に視界を奪われる。



「ぐうっ!?」

「うがぁあああっ!!」



コウが悲鳴を上げるとオウガは彼に目掛けて飛び掛かり、そのままコウを押し倒す。そして残された右腕で何度もコウを殴りつけた。



「があっ!!ああっ!!」

「ぐふっ!?」



オウガの拳が何度もコウの顔面に叩きつけられ、コウは鼻血を噴き出して顔も腫れていく。正気を失ったオウガは気が狂ったようにコウを殴りつけ、彼を殺そうとした。


しかし、何度目かの拳がコウの顔に衝突した際、黙って殴られて続けていたコウも口元に笑みを浮かべ、そして自分を殴りつけようとするオウガの右拳を掴み取る。



「……その程度か?」

「がぁっ!?」

「うおおおおっ!!」



コウはオウガから押し倒された状態から力を込め、あろうことかオウガの拳と顔面を逆に掴む。そして万力の握力で締め付けてオウガを追い込む。

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