第113話 因縁に決着を
「……来たか」
コウは足音を耳にして振り返ると、そこには仁王立ちしたオウガの姿があった。少し前に出会ったばかりの相手だが、心なしか先ほど遭遇した時よりも威圧感を感じ取る。まるでオウガの身体が一回り程大きくなったような錯覚を覚える。
「うおおおおおっ!!」
「……うるさいな」
オウガはコウの姿を確認した途端に方向を放ち、それはまるで獣の雄叫びを想像させた。昨夜に遭遇したコボルト亜種をも上回る迫力を感じ取り、ここまでの圧倒的な威圧感は赤毛熊との戦闘以来だった。
自分の片足を奪った相手を見つけたオウガは激しく興奮し、鼻血を噴き出しながら殺気を滲ませる。そんなオウガに対してコウは構えを取ると、まずは最初に右手を伸ばして火球を作り出す。
「
「うぐぅっ!?」
今にも飛び掛かりかねない気迫を放つオウガだったが、コウが掌に火球を作り出した途端に表情を歪ませ、義足に手を伸ばす。炎を見た途端にオウガは怯え、先ほどまでの威圧感が嘘のように消えていく。
(やっぱり炎が怖いのか)
片足を失う原因となった炎を見るとオウガは正気を失い、まるで子供のように怯えて動けなくなる。しかし、先ほどの戦闘の時は炎を見た瞬間にオウガは逃げ出したが、今回は身体を震わせながらもレナと向き合う。
「ぐぅうっ……死ねぇっ!!」
「なっ!?」
オウガは義足を振りかざすと近くの柱を蹴りつけ、その一撃で柱が粉砕した。この時に蹴り飛ばされた瓦礫がコウの元に迫り、それを見たコウは咄嗟に右拳を繰り出す。
「おらぁっ!!」
「ぐあっ!?」
正面から突っ込んできた瓦礫に対してコウは一歩も引かずに拳を繰り出し、瓦礫を一撃で破壊した。その際に破壊した瓦礫の破片が周囲に散らばり、破片の一部がオウガの頬を掠めて血が流れる。
イチノでオウガと対戦した時よりもコウは腕力を身に付け、旅を行う間も鍛錬は欠かさず行っていた。魔物との実戦経験を経た事で確実にコウは強くなっており、先ほどのオウガとの戦闘では不意を突かれて負傷してしまったが、傷が完治した今は万全の状態で戦えた。
「来いよ、その新しい足も叩き壊してやる」
「な、何だと……舐めるなガキがぁああっ!!」
オウガはコウの挑発を聞いて怒り心頭で彼の元に駆けつけ、飛び膝蹴りの体勢で突っ込む。それを見たコウは右拳を握りしめ、渾身の力で繰り出す。
「おりゃあっ!!」
「がああっ!!」
二人の拳と膝が衝突した瞬間、教会内に振動が広がった。そしてオウガは地面に倒れ込み、コウも右拳を抑えて距離を取る。
「ぐぅうっ……ば、馬鹿なっ!?」
「いってぇっ……久々に痺れた」
オウガの鋼の義足に拳を叩きつけたにも関わらず、コウの方は右腕が少し痺れる程度の損傷だった。普通の人間ならば拳が砕けるどころか右腕が複雑骨折を起していてもおかしくはない一撃だったが、あろうことかコウの拳は鋼の義足を正面から打ち破った。
立ち上がろうとしたオウガだったが先のコウの一撃で彼の義足は膝が曲がらず、たったの一撃で不調を引き起こした。義足が曲げられない事にオウガは戦慄し、先ほどまでの興奮が収まって逆に恐怖を抱く。
(な、何なんだこのガキは……人間なのか!?)
鋼の義足を使い物にならなくなったオウガはコウに対して怒りや復讐心をも上回る恐怖を抱き、自分が相手にしているのは本当に人間なのかと疑う。その一方でコウの方は右拳を確認してしばらくは使えないと判断する。
(右手が上手く動かない。やっぱり、少し無理があったか)
右腕の痺れのせいか掌に力が入らず、追撃を加える事はできなかった。だが、彼にはまだ左腕と闘拳が残されており、動けないオウガに向けて振り翳す。
「今度はこっちだ!!」
「うおおっ!?」
オウガは自分に迫ってきたコウに対してどうにか片足だけで逃げ出そうとするが、動かなくなった義足がまるで錘のように邪魔となり、上手く動けずに接近を許してしまう。
「くたばれっ!!」
「がはぁっ!?」
コウの繰り出した闘拳はオウガの顔面を捉えて殴り飛ばし、オウガは壁際まで吹き飛ばされた。それを見たコウは追撃を加えようとするが、左腕に違和感を覚える。
(くそっ、いつも右手で殴っていたせいで左手だと上手く力が入らない……!?)
岩石を殴りつける際はコウは右拳だけを使っていたため、左手で相手を攻撃する特訓は殆ど行っていない。そのせいで殴りつける際に上手く力が入らず、相手を殴り飛ばすのが精いっぱいだった。
もしも右拳に殴りつけていればオウガは身体が吹き飛ぶどころか骨が砕かれていた。こんな事ならば左腕での戦闘も訓練しておけば良かったと後悔する。
(あの程度で倒せる奴じゃない!!反撃が来る!!)
コウはオウガを倒していない事を確信し、咄嗟に左手に装着した闘拳を右手で抑えると、壁に吹き飛ばしたオウガは目を見開いてコウに蹴りを繰り出す。
「うがああっ!!」
「くぅっ!?」
義足ではない方の足をオウガは繰り出すと、咄嗟にコウは左腕で受け止めたが思いもよらぬ威力に後ろへ後退る。鋼の義足でなくとも獣人族のオウガの脚力は凄まじく、もしも闘拳を装着していなければコウの左腕は無事ではなかった。
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